ホケン[ho-ke-n]と聞いて漢字を思い浮かべる時、あなたは保険派だろうか、それとも保健派だろうか?
Googleでネタ探しをする時によく使う「今日は何の日?」を見てみると、4月7日は世界保健デーと出てくる。WHO(World Health Organization: 世界保健機関)が戦後定めた記念日。そこで今日は保健派の人のためのお話をしよう。

保健室という言葉には独特の響きがある。まだ木造校舎だった小学生時代。保健室でのツベルクリン注射は鮮明に憶えている。あの濃紺の、鉛筆の太さの注射器を打たれた後のずんとくる痛み。
2年の時、板張り廊下で鵜飼君と相撲を取ってケガをした。保健室で赤チンを塗ってくれた大宮先生の優しい顔がクレゾール臭とともに脳裏に浮かぶ。大宮先生のことを皆、養護の先生と呼んでいた。医者になってから知ったのだが、保健室で働く“先生”は教師でなく、保健師なのだ。
ホケンシ、と聞いても多くの人はピンと来ないのではないだろうか? 実は保健師は、助産師と並んで看護師の資格がないとなれない国家資格。保健師助産師看護師法という長い名称の法律で定められていて、大きく行政保健師、学校保健師、産業保健師に大別される。学校に勤務する保健師が養護の先生というわけだ。

以前産業医の話を書いた。(アーカイブ2014.7.20『会社のお医者さん』)。目まぐるしくコンピューター技術の進む現代日本。テクノストレスに悩む多くの従業員を抱える会社にとって、いまや産業医は必須の職業といえる。ただし、その際忘れてはならないのが産業保健師の存在だ。
躁うつの波のためしょっちゅう休みを繰り返す社員、発達障害のこだわりから周囲と壁ができてトラブルメーカーになってしまう社員、、。そうした人たちを産業医だけで対応する事は至難の技だ。そこに助太刀してくれるのが保健師さん。時間を割いて丁寧に話を聴き、生活記録をチェックしながらひとりひとりに合うようにアドバイスする。医療の必要なレベルと判断すれば産業医に相談する頼もしい存在。
僕がクリニック休診日に通うT社でも大和撫子(ヤマトナデシコ)たちが働く。3,000人規模の本社健康推進センターで看護師と別個に配置されており、会社が社員の健康管理に気を配っていることが分かる(注文を付ければ、専門職である彼女たちの待遇はもっと上げてもバチは当たらないだろう)。
厳しい勤務条件をモノともせず、TさんとKさんは今日も社員の面談に奔走している。こちらも頭の回転をトップギアに入れて仕事せざるを得ない働きぶりだ。

WHO(世界保健機関)の設立時(1948年)の憲章前文に健康が定義されている。
「健康とは、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病や病弱さのない事ではない」
さらに1999年総会ではこの文章の前半に「霊的(スピリチュアル)」が足された。
これはまさに僕の信奉する心身医学の目指すところと完全に重なっている。

保健とは文字通り健康を保つこと。これは誰(WHO)にとっても、大切な“キホンのキ”だろう。