令和初の節分という区切りの日、滋賀・大津地裁で呼吸器事件再審の初公判があり、外来を休診にして傍聴に出かけた。
 16年前、湖東記念病院で人工呼吸器を着けた末期の高齢患者が病死した。たまたま発見した看護師が「呼吸器の管が外れていた」とうその報告をしたことから、警察が業務上過失致死事件として捜査開始。ところが、実は管は外れていないのに、外れた時に鳴るアラームを「鳴った」と警察に嘘の証言をさせられた元看護助手の西山美香さん(40)が、警察・検察の捏造ストーリーのまま、患者の管を外して殺したとして逮捕、懲役12年の罪を着せられた。
 西山さんが獄中から両親に宛てた350余通の手紙「私は殺ろしていません」の訴えが中日新聞の記者の目に留まり、冤罪”キャンペーン”の連載が始まった。そのきっかけのひとつが、彼女に軽度知的障害・発達障害(ADHD)などがあったことで、小生が精神科医として、獄中の彼女に精神鑑定した。その縁で3年のつきあいとなり、本日、再審無罪の可能性が大きく高まった。
 これは、西山さんのような「供述弱者」のみの問題ではない。この拙文を読んでいる多くの人が、明日は我が身だという日本の捜査、司法の仕組みがあるということを、改めて認識する必要がある。今日の公判で明らかになった事実として、逮捕、拘留されていた西山さんに、取調べの刑事は彼女の好物のケーキやハンバーガーを渡していた。利益誘導の禁止に違反する違法捜査だ。これが、現実。
 豆まきで駆逐すべきは鬼ではなく、こうした国家権力と、それに同調する国民性だろう。