予想以上の速さで日本列島を駆け抜けた台風8号。おかげで、11日(金)は晴天のもと外来を開くことができたが、翌日興味深い患者さんを診察したので報告する。

雨羽弥太郎さん(仮名25歳)は5月、母に連れられ当院を訪れた。主訴は「雨や人混みで体が動かなくなる」。
こうした場合の常で、あちこちの内科やメンタルクリニックを経てやってきたケースだ。紹介状はない。以前ついた診断は解離性障害や発達障害など。大学病院では知能検査も行われ、IQは95。(下位分類の細かい内容が知りたいが不詳)。いずれにせよ、ひとつところで落ち着いて治療を続けることができなかったようだ。

雨羽さんは2人兄妹の長男。幼少時に両親が離れ、母親に育てられた。プラモデルが趣味で、ボール投げは苦手。中耳炎を繰り返す体質で、頭痛持ち。ずっと雨が苦手だったかははっきりしないが、傘をさすのは嫌いだった。人付き合いはおくてで、友人は少なかったという。
特記すべき出来事は19歳での事故。雨の日に自転車に乗り、彼が赤信号で交差点に突っ込み、乗用車とぶつかった。記憶がないため詳細は不明。その後しばらくしてから、いやなことがあると記憶が飛ぶ。いきなり暴れることもあるという。

心理検査では他者配慮に欠ける面があり、それと好対照に事実に忠実な点や、これまでの経緯を合わせると、以前の診断で大きな齟齬(そご)はない。問題は症状がよくなるかどうか、の一点。
発達障害のなかには薬剤に極端に過敏なひとがいる。僕はある非定型抗精神病薬を通常の10%の量から始めた。副作用なし、効果もなし。徐々に増量し、20%で有効、ただし1日持続しない。40%で有効かつ持続した。当然、彼の訴えを傾聴する精神療法も併用である。
結果、今回の台風のなかレンタルビデオ店にひとりで行けたと喜ぶ。硬かった表情に笑顔が出てきた。

最近、京都大医学部の研究グループがリウマチ患者2万人以上のデータを統計解析し、腫れや痛みと、症状の出る3日前の気圧に相関関係があることを解明した。僕にも、「雨が降る前に頭痛がするので私は天気予報ができる」という患者さんが何人かいる。

つねづね主張しているように、ひとは自然の一部である。気圧や天候といった外部環境と患者さんの体の内部環境はつながっていると考えるのが心身医学である。今回、雨羽さんが新薬でよくなった理由の分析は必要だが、心身一如(しんしんいちにょ)の態度で患者さんに接していくことが”基本のき”であることには変わりがない。