9月10~16日は自殺予防週間。感染症と違って、自殺はうつらないかというと、留保が必要だ。有名人のニュースで後追い自殺が生じることは周知のとおり。最近は俳優の三浦春馬さんが亡くなった時、当院でもうつ病の悪化した患者さんが何人もいた。留意すべきなのが遺族や知友への支援だろう。

 40代独身男性。19歳の時、交通事故で頭部挫傷を負い、外傷性てんかんと物忘れや、こらえ性のなさに悩んだ。いくつもの仕事を転々とし、症状が高次脳機能障害によるものと確定したのは40歳を越えてからだった。
 障害者手帳取得の目的もあり、4年前当院を受診。繰り返す確認癖を見守りながら、支援中心の治療が続く。安定してきた先日の診察で「いろんなことありすぎた」と肩を落として、こぼした。
 訊けば、中学時代の一番の親友が自殺したという。「その前になんで相談してくれんかったんのかなあ。最後に会ったのは2、3年前。(中学の)遠足で一緒のグループやった。放課後はよく遊んだ」。3日前のことは忘れても、昔の記憶は岩のように確かだ。
 話すうちに、話題が以前辞めさせられた会社の上司への恨みに転じていた。高次脳機能障害ではよくある。ところが、もう一度、こちらから亡き友のことに話題を戻すと、衝撃的な話をし出した。その親友は自分の乗用車を別の同級生に貸したのだが、なんとその同級生が運転中に交通事故で亡くなってしまったのだ。しかも、事故の相手も同じ学校出身という。なんという奇縁。

 聴いているうち、こちらの内面が揺さぶられた。以前、親しくしていた後輩が自死を選んだときのことを思いだした。意識の水面下をたどると小学生のころ、級友の兄が縊首したエピソードが浮かんできた。三島由紀夫が割腹した翌々年だったと思う。

 たまたまだろうが、自殺予防週間の初日は重陽の節句の翌日。「六日の菖蒲、十日の菊」は節句に間に合わず、無駄になる花から転じて、「後のまつり」を意味する言葉。文字通り、手遅れにならぬ手当をする役割が、こころ医者には求められている。