梅雨前線による豪雨が日本列島を襲っている。プロ野球ドラゴンズファンなら「権藤、権藤、雨、権藤」を思い出すだろうか。今ならさしずめ「コロナ、コロナ、雨、コロナ」。きょうはコロナ禍に産後うつ病を患う女性の話。

 昨年暮れ、主婦Aさん(30歳)が長女を里帰り出産した。西日本の実家から愛知県に戻って育児を始めたとき、ちょうど新型コロナウイルス流行に重なった。食欲が無くなり、子育てが不安になった。内科で胃薬を処方されたが改善なく、当院受診となった。
 元々、生真面目な性質(たち)だった。大学では古代ローマ奴隷制を研究し、就職して6年後に結婚。家族仲は良いし、特に困りごとは抱えていなかったのに、明らかに出産後落ち込んだ経過は「産後うつ病」と診断される。
 今一番、困る症状は時間に追われること。
「子育てを楽しむことができなくて、責任感からタイムスケジュールに追われて何十回も時計を見てしまい、前に進めません。義理の姉から、離乳食作るのも楽しみだねといわれると、それもプレッシャーで。エアコンが赤ちゃんにどう影響するかさえ気になって」と努めて冷静を装い、訴える。
 彼女にいま一番必要なのは、余裕。それを支えるのが周囲の家族や知人たちだが、夫は仕事で帰りが遅い。伝手(つて)のない土地に友人はおらず、子育てサークルもコロナ禍で閉鎖になってしまったという。両親もたびたび顔を見に来られる距離でもない。
 まだ治療は始まったばかりだが、ひとりで背負い込むことのないよう、話をじっくりと聴いた。

 Aさんのように、子育てに全力投球して疲れ、心の病になってしまう人もいれば、交際男性に会うために3歳の娘を1週間以上放置して衰弱死させた者もいる(昨日、警視庁に保護責任者遺棄致死容疑で逮捕)。幼な子を持つ母親の心は一筋縄ではいかない。
 せめて、コロナ禍がきっかけのうつ病など増えないでほしいと、豪雨でけん牛織女の見えない天の川に向かって短冊を掲げよう。