日本特有の自粛要請が奏功し、コロナ感染者はひとまず減少してきた。これを受け、当初5月末とした緊急事態宣言が、東京など8都道府県を残して解除された。同時に国会で議論されている検察庁法改正案が日本国中で反発を受けている。今日は法学部卒の元新聞記者として、同案へのオブジェクション〔異議〕を提出したい。 
   検察とは何か?答えは議論の的になっている検察庁法(以下「法」)第4条を読めばよい。
「検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、、中略、、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。」
 刑事とは人間のことではなく、刑法及び関連法規に定める違法行為であり、公訴とは公的機関による起訴のこと〔英国のように警察官が私人として訴える場合もある〕。要は、司法の一翼を担う”法の番人”というわけだ。
 国会での首相らの説明を聴くと、「検察は行政に属する。(なので、他の公務員と同じ扱いになるのは当然である)」。それは杓子定規というもので、その文言の裏を読まなければ、意味がない。言い換えれば、「公立学校の教師は公務員だから、他の役所と同じ規則で管理しなければならない」と言いくるめるようなものだ。論理のすり替えの典型。なぜ、今?を問えば、おのずと答えは出る。

 新聞記者時代、東京地検担当だったとき。平成改元後すぐ、リクルート事件が摘発された。特捜部副部長番となり、夜討ち朝駆けに明け暮れた。当時の東京地検検事正はロッキード事件で主任検事を務めた𠮷永祐介さんだった。
 ある雨の日曜、吉永検事正の自宅を取材に訪れた。いつもは話せる間柄ではないが、共通の趣味の囲碁を話題に持ち出し、小さなマンションにあげてもらい、2局打った。当時私はアマチュア2段だったが、6段格の検事正に5子置いた。1局目、形勢はこちらが有利。手を抜いて相手に花を持たせて、リクルート情報を仕入れようという姑息な考えが、一瞬頭をよぎった。が、𠮷村さんの性格を思い出し、思い切り打って快勝した。もう1局と相手からいわれ、今度も全力で打ったが、最後に粘られ、逆転で負けた。結局、特ダネ情報は入手できないままだったが、満足だった。

 検察とは、何か? 法改「正」に向けて、あわただしく動く政府(首相周辺)をみていると、国のあり方を考えさせられる。この春、滋賀の呼吸器事件で冤罪の汚名をそそいだ西山美香さんと連絡を取りながら、法改「正」に反対する検察OBと、組織の体面に固執した検事たちの「差」に思い及んだ。
 𠮷永祐介が生きていたら、なんというだろう?それは太陽が東から登るのと同じことだ。