新型コロナウイルスの感染確認者が世界中で230万人を数え、国内では1万人を超えた。うなぎ上りの状態を受けて先日、緊急事態宣言が全国に発せられた。
 ウイルス感染に国境はない。前回書いたように、人類は戦争、自然災害と並んで、感染症の世界的大流行に繰り返し遭遇してきた。それは地球の側から見れば、生態系を乱す、生物進化の新参者の人口調節弁として働く重要な戦略だろう。
 英国の首相も罹患するぐらいだから、これほど“平等”な災厄はないと言いたいが、ちょっと待て。国別で最悪の犠牲者を出す米国では死者のうち、黒人、ヒスパニックの割合が白人より高い。単一民族幻想のあるわが国でも、都道府県による感染者数に彼我の差は大きく、職業別でも差が出る。
 喫緊の課題は医療崩壊だろう。先進国としては集中医療の過少さがここにきてアキレス腱となっているが、これは別稿に譲る。今回は自粛要請が出ても休めない仕事に就く人たちの苦悩を、当院患者の様子を紹介することで示したい。

 30代のスーパーマーケット店長。コロナのコの字も無い4年半前、仕事のストレスから動悸で倒れ、心臓に異常なく、当院を受診した。診察での傾聴、漢方の頓服(炙甘草湯という即効性のある方剤が有効)などで対応し、なんとか来たが、家庭内の心労で抗うつ薬を加えざるをえなかった。そこにコロナ禍が容赦なく襲う。睡眠4時間を確保できればマシなほうだ。
 先週の日曜日。人手が足らず、店長の彼もレジに立っていると40歳ぐらいの女性客がすごい剣幕でまくし立てた。買い物かごの商品の値段を確認しろ、しかも手を触れるなというのだ。店を閉めて、すべてのかごを消毒する苦労は、客には関係ないのだろう。これでもし、感染者が出たら、、、。
 40代の派遣会社員。就職氷河期で正規社員の道が狭く、高校卒業後20年コンピュータ関係の仕事についてきた。長年の不眠症で3年半前、前医から引き継いだ睡眠薬を処方しながら話を聴いてきた。
 先週の診察で珍しくこぼした。「仕事柄、テレワークは進んでるんですが、社員さんのみで。派遣の僕たちは普通に電車通勤。気分、よくないです」。彼にとっては“痛勤”電車だ。できるだけ、ドア付近で人に背を向けて立つアドバイスぐらいしかできず、診察後に考え込んでしまった。

 逆説に聞こえるが、コロナがすべての人にウツることこそが救いなのかもしれない。ジョンソン首相がICUで考えたのは、世界中に集団免疫が付く日のことだったろうか。