平成残り1ヶ月となった1日、天皇陛下の退位に伴う5月1日からの新元号が発表された。
令和(れいわ)――初めての日本古典・万葉集からの選定。和歌は中学国語で習うが、出典箇所の序文は初めて触れる人が多かろう。「和」は二代前の昭和と同じで、これまでの元号で何回も使用されているが、「令」は初めて。読み方のR音の響きを新鮮に聴いた人、耳慣れない感じの人に分かれそうだ。

白川静氏の『字通』によると、「令」は礼冠を着けて跪(ひざまづい)て神意を聞く人の形。古くは「令」「命」の二つの意味に用いた、とある。なるほど、同じく命(めい)は「神に祈って、その啓示として与えられるもの」が原義で、「天の命ずるところであるから、人為の及ばないところをすべて命」とするようになったという。
なので、この漢字、命(めい)をやまと言葉の「いのち」に充てたのは、偶然ではありえないだろう。白川氏は『字訓』で、命(いのち)は「生(い)の霊(ち)」のことと説く〔論創社『白川静さんに学ぶこれが日本語』小山鉄郎氏著より〕。

西暦でいえば、21世紀の18年が過ぎ、科学技術の発展は右上がりの急カーブを描いている。AIの進化がその表れだが、生命科学の分野でも事情は同じだ。生命操作の極北ともいえるi PS細胞の発見でノーベル医学生理学賞を得た山中伸弥氏が新元号の選考委員となったのも、「令=命」の語源を考えたとき、何とも言えない縁を感じる。
人為の及ばぬ「いのち」につながる元号の文字を選んだ一人が、人為の最先端を走る科学者であることの巡りあわせ。宇宙の果てとミクロの底がウロボロスの蛇のようにつながっている光景を想像してしまうような、平成最後の新元号選定だった。