このブログでは毎年繰り返し、いくつかの同じ日に同じ出来事について書いている。3月11日の東日本大震災、6月19日の桜桃忌、8月12日の日航ジャンボ機墜落事故、10月10日の体育の日。その悲しき“仲間入り”を果たしたのが「7月26日」だ。

2年前のこの日未明、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者45人が一人の元職員に殺傷された。
犯行当時26歳の植松聖被告は、意思疎通の取れない障害者を「心失者」と呼び、在住者160人のうち障害の重い方たちを選んで凶行に及んでいる。
その計画性、職員や障害の軽い者には致命傷を与えていない点などから、責任能力はあるとみられているが、採尿で大麻の陽性反応が出ており、薬物の影響は考えられる。

しかし、いちばんの問題は繰り返し報じられてきたように、植松被告の「優生思想」にある。〔当ブログで指摘。アーカイブ2016.7.31.『われらが内なるヒトラー』参照〕
植松被告は中日新聞にあてた手紙で「(重度・重複障害者は)人の幸せを奪い、不幸をばらまく存在」と決めつけ、「私の考える大まかな幸せとは『お金』と『時間』」と書いている。
相模原事件の重大性から彼を特殊な存在としてとらえると、大切な視点を失うだろう。「現代の幸福は経済効率次第だ」というテーゼに頷(うなず)く人は、かなり多いのではないか?
知的障害者の家族に行われたアンケート〔共同通信社〕では、68%が「事件後、障害者を取り巻く環境悪化を感じた経験あり」と答えている。

当院にも知的、発達障害の患者さんが受診されている。ほとんどの方はみずから意思表示でき、行動もある程度律することができるが、それゆえの苦労も多い。
周囲から「怠けている」「甘えてちゃだめ!」などと言われて、自分では途方に暮れてしまうこともしばしばだからだ。
理系女子の須立美奈代さん(40歳)は保育園に通う一人娘が自閉スペクトラム症と診断され、「子供を前にすると頭痛でいらいらする」とやってきた。「大学で学んだコンピュータのようにはいかないんです」と悩む。
こどもが言うことを聴かないのは当たり前!と普通の家庭のように伝えても解決にはならない。須立さん自身に自閉傾向のあることに気づくのを待ち、長女の良さを見つけるのを手伝う(「そう、お嬢さんにはこんなに、一つことに熱中できる力がありますよ」)。2年間の診察を経てようやく、笑いが出るようになった。

報道によると、植松被告は「やまゆり園の職員に障害者差別の考えを話した際に『ヒトラーと同じだ』と指摘されて初めて知った」という。それは逆に、彼の中の“内なるヒトラー”を自覚させたということだろうと思う。そして同時に、われわれの中のヒトラーもまた、、、。