徳川家康が四百年前に建て、太平洋戦争で焼失した名古屋城本丸御殿が復建した。同時に焼失した天守閣は4年後をめどに木造復元される。この日、数キロ先にある旧東海銀行本店ビルが、老朽化による建て替えのため閉店した。
ビル竣工は僕が生まれた年だ。建築業協会賞の栄えある鉄筋コンクリート8階建ての寿命が、わが年齢と同じとは。それに比べ、たとえば世界最古の木造建築物・法隆寺は千四百年を経てなお古式美を保ったままだ。
人類は進歩してきた、とは現代人の勝手な思い込みであることの証明がここにもある。

さて、二か月ぶりのブログは、29年ぶりに名古屋で開かれた日本心身医学会総会の報告。会場は三種の神器・天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)が安置される熱田神宮お隣りの名古屋国際会議場。
充実の二日間だったが、金子宏会長の専門である消化器心身症や発達障害関連のプログラムが多かった。今回は最近、海外では注意欠如多動症(ADHD)など発達障害に有効との報告が相次ぐ治療法、ニューロフィードバック(NFB)のシンポジウムについて記したい。

人の体には知らず識らず、 神経やホルモンなどを介して、いつも同じ調子を保とうとする仕組みが備わっている。これを、ホメオスタシス(HS)=恒常性の維持と呼ぶ。体温や脈拍など外から観察できる身体データを利用して、自力調整を図る治療がバイオフィードバック(BF)であり、その中でも脳波を利用するのがNFBだ。

発表者の佐藤譲、竹内聡先生によると、NFBは脳のエアロビや筋トレと思えばよいとのこと。僕には開発の歴史がたいそう興味深かった。
1967年、学者バリー・ケルマンが猫の脳波を測定中、獲物を取るときには脳の頭頂部にある感覚運動野(SMR)が活発化することがわかった。そこで、当時毒性のあったロケット燃料をエサに混ぜ、50匹の猫に与えた。そのうち、SMRを刺激した猫はエサの副作用が出にくくなり、3匹は全く影響が無かった。
この刺激がなぜ良かったのかのメカニズムは未解明だ。だが、これは人間にも適用できると判断され、コンピューター技術が飛躍的に発展した近年、欧米では臨床応用が急増。アスリートのメンタル能力アップにも利用されているという。

 NFBの治療目標は脳内ネットワークに異なるオプションを学習させ、自己組織化させるきっかけを与えることという。たとえばADHDの中でも、定量化脳波を測定し、低い周波数優位型と速い周波数優位型では、NFBの刺激法(プロトコル)が異なる。実は当院でも両先生の指導を受け、しばらく前からNFBを実施している。
残念なのは、まだ国内での認知度が低く、有用性が浸透していないことだ。これには、地道に診療を続け、改善例を積み重ねるしか無いだろう。できればどこかの医大で講座が開かれるとありがたいのだが、、。
NFBの一番の特徴は、症状を言語化できないような患者さんにも負担のない事だろう。治療中、頭部に電極を付けた患者さんは、ただパソコン画面の DVDを眺めているだけでいい。「何もしない」ことが、むしろ大事だ。これは、心身医学の森田療法に相通じるものがある。NFBではそれが視覚化されるので、より簡便で応用範囲も広いように思える。

以前、高級ウイスキーの宣伝で「何も足さない、何も引かない」というのがあった。素材のモルトとオーク樽、つまり自然に委ねることから生まれる豊穣。前頭葉を発達させたヒトにとって、文明化への欲望は不可避なのだろうが、人工化のカウンターパンチとしての自然回帰はいつの世にもある。
温故知新ーーコンクリよりも木の方が時の重みに耐えうるように、脳の自然回復力を目指すNFBも “人工から生まれた自然”を目指すといい。