けさ、いつもの日曜のように起き、顔を洗って朝食を済ませ、いつものように飼い犬の散歩に出た。
コースの公園。午前8時46分。いつもなら少年野球の掛け声が響くのに、きょうは休みなのか、グラウンドには人影もなく、ガランとした地面に春風が砂ぼこりを舞わせている。

平成23年3月11日金曜日午後2時46分。このグラウンドに誰がいたのか、思いを馳せた。
東北地方は小雪舞い散る天気だった。有史以来最大級のマグニチュード9地震。そして、最大波高40mに達した大津波が太平洋岸一帯をのみ込み、すべてを奪い去った。

ことしも「3・11」が近づくと、メディアでの関連報道が増えた。あるTVでは、震災直後に取材した被災児童たちに7年ぶりのインタビューマイクを向けていた。その中で印象に残ったのが、当時小学生だった女の子の言葉。「憶えていてほしい」。

ソチ、平昌(ピョンチャン)オリンピックで2大会連続の金メダルを取った羽生結弦選手も16歳の時、宮城県で被災した。3年後、ソチ五輪で優勝した時、金メダルで復興に直接役立つわけでないという「無力感」を語ったが、先月の平昌五輪で大怪我から復帰して勝ち取った金メダルを手にしたときに、無力感は自信に変わっていた。「僕が頑張ることで、たくさんの人たちの笑顔がみられた」。

記憶のメカニズムはまだまだ十分に解明されたとは言えないが、昨年の科学誌『Neuron』に掲載されたレビュー論文によると、脳内の細胞、シナプスが「時間を理解している」からという。論文共著者のニコライ・ククシュキン氏は「記憶を蓄えている場所があるのでなく、システムそのもの」と主張する。

中島みゆきは『記憶』でこう歌う。
♪ 思い出すなら 幸せな記憶だけを 楽しかった記憶だけを辿れたらいいけど ♪

すべての日本人にとって、辛い体験であった東日本大震災。しかし、その辛さを記憶して、次につなげることが、われわれ今に生きる者たちに課せられている。誰もいない公園グラウンドで飼い犬のリードを握りしめ、そう考えた。