2年近く前、この院長ブログが100回に達した。誰も祝ってくれないので〔涙〕、ひとり勝手に『百の恵み』(アーカイブ2015.9.13)を書いた。題名のとおり、山口百恵さんをダシにした心身治療原論。〔再度、涙。読んでネ〕
きょうは、日野原重明先生が先日105歳で彼岸に渡られたのとシンクロするかのように、われらクリニックで“百関連”慶事が起きたので、紹介したい。

精神科外来治療の柱を精神療法という。要は、患者さんの困りごとをきちんと聴き、寄り添ってうなずき、一緒に悩み、できれば解決方向に踏み出す、というもの。昨今は医療技術の進歩に伴い、こころの病もすべて、「脳」という臓器に還元されがちだが、忘れてはならない医者の基本姿勢である。
当院では、医者による精神療法のほか、臨床心理士がカウンセリング室で話をうかがう心理療法(=狭義の精神療法)がある。時間を長く設定するので、ほかのクリニックでは実費で行うところもあるが、当院では保険診療なので、金銭負担はほとんど変わらない。

粟手照蔵さん(45歳)。医療関係に勤務して8年。もとは工学系大学を卒業後、機械部品メーカーに就職。下請けいじめをする会社の姿勢についていけず、退職した。そのころうつ病になり、自死願望が強まった。いくつかの精神科クリニックから大学病院までたどり着き、なんとか病気は小康状態に。
しかし、その後勤めた会社で今度は自分が職場いじめに遭い、再度抑うつ悪化。職場も医療関係に替えたが、以前の薬物療法では完治しないため、関係者から紹介され、当院の門をくぐることとなった。

ここで院長は何を考えたか?、
通常なら、反復性うつ病と診断して別の抗うつ薬を処方すると同時に、うつ病発症にどんな要素が絡んでいるのか探り出だす。ノートを使った認知行動療法(CBT)を検討するだろう。
ひょっとすると、多くの人がうつ病はカウンセリングで治すものと思っているかもしれない。しかし、“うつ”にはいろいろなタイプがあり、先ほど挙げた「脳」の病気としての「内因性うつ病」に必要なのは、まず休息〔プラス薬〕。安定期に入れば、食事運動療法で、セロトニンなど脳内神経物質の通りをよくしてやればよい。
これは覚えておいてほしい。“うつ”を治すのに一番必要なのは、生きる意欲。そのエネルギー回復のため慢性期にすべきは生活習慣病〔日野原先生が提唱した概念〕と同じ、正しく食べて動くことなのだ!

粟手さんに戻ろう。診察から、彼の慌てやすい性格が見てとれた。自律神経が乱れやすいようだ。漢方処方のため脈をとると、手掌に汗がにじんでいるのがわかる。おなかも壊しやすい。「前向きな性格」と自分でいうのとは裏腹に、無意識に周囲に合わせてしまい、ストレスを溜めて体に症状が出るパタンを繰り返してきたことが分かった。
方針①当院に備えた検査機器「カルポッド」で自律神経機能チェック。
方針②臨床心理士によるカウンセリングを焦らず、じっくり続ける。
結果①自律神経失調を認め、漢方処方。→睡眠大幅に改善。
結果②すぐには効果はなかった。されど、当初は毎週、去年からは隔週でこのほど100回に達した。
「すごく、楽に考えるようになった。以前の自分はどこかで無理してたんだなあと気づいた。最近、よく笑います」。
この前、初めて、粟手さんがカウンセリング日の約束を忘れた。本人は恐縮したが、僕はこう伝えた。「ようやく、良くなってきましたね」。ーー粟手さんに、これから百の恵みが降ってくるのは間違いない。

【付録:百の恵みで書いた最後のフレーズ】
山口百恵は昭和の菩薩だったのだと。そして、祈り・笑い・歌う(い・わ・う=祝う)ことが、“治り”に繋がることをーー。