3月18日は春の睡眠の日(秋は9月3日)。去年の当欄では睡眠薬について、とくにベンゾジアゼピン(BZ)系薬の危険性について解説した。きょうは睡眠にまつわるいろいろなお話。

なぜ人は眠るのか? 考えてみると、睡眠とは不思議な現象である。
むかし、春日三球・照代という夫婦漫才師がいた。定番ネタ「地下鉄の電車はどっから入れたんでしょうねえ?それ考えてっと、一晩中眠れなくなっちゃう」で思い出し笑いできる方は僕と同じか上の世代。でもどうして夜寝なきゃいけないんだろう、、。
地球が誕生して46億年。1日の長さ、つまり自転周期は24時間だが、これは古今東西一定なわけではなく、段々長くなっているのだ。理由は主として、衛星である月が1年に3㎝ずつ地球から遠ざかる「潮汐作用」によるもので、地球誕生のころ1日はわずか5時間程度だったという。6億年前でようやく22時間に伸びる。
その後、魚類が出現する。さらに進化した生物は陸に上がり、内部環境(=細胞)を外部環境に合わせないといけなくなった。昼と夜に合わせ生存するために遺伝子が対応した結果、体内時計が発達した。その際、ヒトは1日を25時間にセットしたため、毎朝太陽光を浴びて体内時計をリセットしているのだ。
ヒトの細胞60兆個すべてに遺伝子は組み込まれており、それらを管理する”親玉”細胞が眼球奥の視交叉上核(しこうさじょうかく)にある。そこからメラトニンというホルモンの一種が分泌され、昼行性のリズムが生まれる。
しかし、夜の地球を撮影した人工衛星画像をご覧の方には一目瞭然なように、現代都市の夜は昼と同じだ。24時間ネット社会で睡眠リズム障害に悩む人が増えるのは自然の成行きといえる。
さいわい、メラトニン受容体の刺激薬(ロゼレム)が発売され、寝坊助の学生や睡眠リズムの乱れたお年寄り(年を取ると眠りは浅くなる)に処方させてもらっている。

1年前にも書いたように、患者さんに最も多い誤解が「最近夢ばかり見てるんです。寝れていないので睡眠薬下さい」というもの。毎日のようにこの質問が診察室で繰り返されるので、ここで再度説明したい。(アーカイブ2015.3.18.「良き眠りのために」参照)
睡眠は単なる休息ではない。むしろ脳のある部分は睡眠中、覚醒時よりも血流が豊富なのだ。睡眠脳波を測定すると5段階に分かれる。入眠するとまず深い脳波となり徐々に浅くなってREM睡眠に入る。寝ているのに眼球の動くこの時間に夢を見る。その後再度深い睡眠となり、このサイクルを一晩に4~6回は繰り返す。REM睡眠時に目覚めると夢を覚えている。この時期は副交感神経が優位なので、喘息発作は起こしやすいが、夢見のときに起きたからと言って害はない。早朝勃起もこの時期に起こる。なので、”エッチ度”とは無関係デス。もちろん薬も要りません。
研究では、進化した動物ほどREM睡眠は多い。赤ん坊のREM睡眠は半分ほど。一体どんな夢を見ているのか興味はあるが、夢には覚醒時の情報処理の役割があるようだ。
フロイトは精神分析理論で性的欲動(リビドー)を基に、夢分析の分野を打ち立てた。その弟子のユングは人類に共通の無意識があると仮定して理論を構築していった。夢はこれからも医学・科学の分析対象となっていくのだろう。

僕の盟友の医師に名市大睡眠医療センター長の中山明峰先生がいる。中日新聞の毎週火曜医療面で「ぐっすりGood Sleep」というコラムを担当している。耳鼻科が専門の明峰先生は最新コラムで、メニエール病と睡眠時無呼吸の関係を世界で初めて報告したことを載せていた。
いまや不眠と高血圧、糖尿病など生活習慣病との関連も定説になっている。睡眠というありふれた現象の奥に深い洞窟が広がっている。
イルカは脳の半分だけ眠りながら泳ぐ。(全部寝たら溺れてしまう)。なので、ウインクしているイルカを見つけたら、それは寝ていると思ってよい。そんなのイルカって?寝ながら考えてみてください。