日本人を働き者と思う人達の割合は減少中だろうが、それでも、今回のニュースは特筆に値する。
アリ社会では必ず、集団内で働かない働きアリがいる。この一群の”怠けアリ”がいるおかげで、集団が長期存続できると、長谷川英祐・北海道大准教授(進化生態学)のチームが『サイエンティフィック・リポート』に研究発表した。

動物の中で最も多様性を備えて進化したのが昆虫。その中でハチ(蜂・bee)やアリ(蟻・ant)は分業的階層を持ち、集団生活する種として知られる。分業的階層とは、子孫を産むのは女王ハチ・アリに特化して、ほかの個体が営巣などを受け持つ役割分担制のこと。長谷川先生によると、アブラムシの一部やハダカデバネズミも同じ階層を持つ。
英国の動物行動学者リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んだ長谷川博士は、働きアリが自分の子を産まずに兄弟の子育てを手伝う”利他の精神”で自分の遺伝子を後世に残す戦略に魅かれてアリの研究に入ったという。
研究を続けて判明したのが、以下の事実――働きアリのコロニーには常に2割ほどの働かない個体群がいる。その2割を元のコロニーから分離すると、そのうちの8割が働き出す。また、残った”勤勉”な8割の中から2割が働かなくなる現象も確認された。
つまり、コロニー内の労働割合は、個体群によらず常に一定であるという法則が導き出される。これは営巣などの仕事に対する腰の軽さともいうべき「反応閾値(いきち)」の差が原因だ。
今回はさらにコンピュータ・シミュレーションを用い、ひとコロニー75匹のアリ全員が同じに働く集団と、一部が何もせずにいて、他の働くアリが疲労してから働き出すアリのいる集団を比較。結果は、全員が働くコロニーのほうが早く滅びる傾向が強かったという。

なんだか身につまされる話ではないか。効率を求めて頑張りすぎると、長期的視点に立てばかえって非効率的になるという逆説。しかし、見方をかえれば、これは「ワークシェアリング」だ。種の保存という究極の目的のために、仕事に余裕を持たせることは当然ともいえる。
診察で真面目一辺倒なうつ病の患者さんに僕がよく言う言葉。「自動車もハンドルに”遊び”がないとかえって危ないよね。ゆったり、しっかりでいこう」。
幾人もの”勤勉アリ社員”の患者さんの顔が思い浮かぶ。一カ月の時間外就労が軽く80時間を超える彼らを救うのは抗うつ薬ではなく、まず、休養なのだ。ある道路管理会社で働く男性、安見奈史夫さんへ。これを読んでいたら、実行してください。復職後3か月で残業80越えはだめですよ!(本当は安見さんの上司・会社に言うべき言葉)。
いっぽうで、年単位で自分の出番を待っている”待機アリ社員”の患者さんも当院にはいる。彼らにはこう言う。「規則正しい生活を送って、体の遺伝子を活性化しよう。うつが良くなるのを積極的に待とう!」。ヒトという種レベルで見れば、彼らの存在は人類を破滅から救う適応種かもしれないと思うことにしている。
さて、昔からのことわざ「果報は寝て待て」は、平成ジャパンでどれだけ有効だろうか。