平成27年も残り秒読みに入った。ビッグバンで宇宙が誕生してからの歴史138億年(いち・み・や億年と読める!)を1年に縮めると、人類が出現したのはきょう大晦日、しかも紅白歌合戦の時間だ。キリスト生誕は除夜の鐘を突き終える5秒前という計算。なんともスケールの大きな話で未(ひつじ)年を締めくくろう。

年末恒例の10大ニュースが新聞紙面に掲載されている。昨今のキナ臭い世相を反映して、海外ではパリ同時テロなどイスラム過激派関連がトップ、国内では集団的自衛権行使を容認する安全保障関連法案成立が1位に選ばれた。
暗いニュースの並ぶ中で希望を与えてくれたのが、梶田隆章・東大宇宙線研究所長と大村智・北里大特別栄誉教授へのノーベル賞授与。中日新聞は地元紙ということもあってかMRJ初飛行をランク入りさせたが、僕個人としては、それ以上に載せてほしかったのが、金星探査機『あかつき』の周回軌道再挑戦成功の報道だった。
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)のHPから要約してみよう。
『あかつき』(PLANET-C)は火星探査機『のぞみ』(PLANET-B)に続く惑星探査計画で、金星の大気の謎を解明しようと投入された。大きさが地球に近く、太陽からの距離も他惑星に比べて近いのに、なぜか金星の大気は高温の二酸化炭素に包まれ、硫酸の雲が浮かぶことまではわかっている。その理由が探査で判明すれば、地球環境の成り立ち解明に大いに役立つのだ。
『あかつき』が種子島宇宙センターから打ち上げられたのは2010年5月21日。同じ年の12月7日に金星の周回軌道に入る予定だったのが、異常燃焼による機体損傷で軌道投入に失敗。だがスタッフはあきらめなかった。原因を正確に突き止め、探査機の軌道修正作業を地道に続けた。
JAXAのあかつき特設HPで、中村正人プロジェクトマネージャーはこう書いた。「今回の経験から将来に向けた教訓を導き出し、失敗を乗り越えて新しいミッションを打ち出すことは、私たち宇宙科学に携わる者の使命です」
以来まる5年、ついにその日は来た。
今月9日、『あかつき』が金星との最短距離400㎞で、その周囲を13日14時間周期で回っていることが発表された。わずか1.4m四方、重量518㎏の探査機メインエンジンが使えない。しかも機材の耐久年数4年半を超えているという大きなハンディを、綿密な計算と気概によって乗り越えた。5年前『はやぶさ』が2度目の大気圏突入で小惑星イトカワの資料を持ち帰った”奇跡”の再現を思い起こした人も多かったろう。

あかつき成功のニュースを知り、僕はある歌を思い出していた。
25年前に流行ったロックグループ「たま」の『さよなら人類』(柳原幼一郎作詞、知久寿焼作曲)。
♪二酸化炭素をはきだして あの子が呼吸をしているよ~♪で始まる、中年世代ならよく知るのんびり独特メロディー。有名なリフレインは♪今日人類がはじめて木星についたよ ピテカントロプスになる日も近づいたんだよ♪
ことしNASAの無人探査機ニュー・ホライズンズ(2006年打ち上げ)が冥王星の映像を送信してきたが、同機が木星探査をしたのは8年前のことだ。
われわれ人類は、宇宙の隅のちいさな、しかし緑ゆたかな星に生かされている。それを想うと、日々の細々とした事どもへの煩(わずら)いが減るような気がするし、地球規模に拡がる民族紛争すらちっぽけなものに見えてくる。♪武器をかついだ兵隊さん 南にゆこうとしてるけど サーベルの音はチャラチャラと 街の空気を汚してる♪とたまは歌う。
来年は申(さる)年。映画『猿の惑星』(1968)のラストシーンは衝撃的だった。人類があの映画と同じ轍(てつ)を踏まない英知が求められる時代にわたしたちは生きている。