『続・10月10日は体育の日』に続けて続編版をお届けする。(まずアーカイブ2014.10.12.『スポーツの秋にうつを吹き飛ばせ!』をお読みください)。
ことしも1年前同様、雨で1週間延期された小学校学区運動会が催された。透き通った秋空の下、「赤勝て、白勝て」の歓声がこだました。きょうは昨年コラムで自分に出しておいた”宿題”の提出日。

『脳を鍛えるには運動しかない』(ジョンJ・レイティ著、野中香方子訳、NHK出版)。
350頁の分厚さにたじろいで1年”積読”だったのを、覚悟して読み始めたら一日で読了できた。内容は論より証拠、僕の下手な解説より直接お読みください、ではあるが、2100円+税なら買ってみようと思って頂くために概要を紹介しよう。
著者は米国ハーバード大医学部臨床精神医学准教授。1980年代にADHDの研究を始め、最近は運動の精神活動に与える影響の研究を続け、全米ベスト・ドクターに選出されている。
本書では、「運動で爽快な気分になるのは、心臓から血液がさかんに送り出され、脳がベストの状態になるから。筋力や心肺機能を高めることは、むしろ運動の副次的効果」(序文)と言い切る。
レイティ博士はこの主張の裏付けとして、第一章「革命へようこそー運動と脳に関するケーススタディ」で、シカゴのある高校の取り組みを紹介する。
以前カフェテリアだった場所にランニングマシンとエアロバイクを並べ、午前7時過ぎから授業前トレーニングを課す研究を行った。ポイントは平均心拍数を一定以上に保つこと。その結果は――
ゼロ時限体育と銘打ったこの授業で、この地区生徒1万9千人の読解力など成績が17%伸びた。それだけではなく、校内暴力が以前より6割減少したのだ。成績向上は特に運動直後に授業を受ける方が効果が高かった。これは医学的にはどういうことなのか?
その理由は脳内の神経伝達物質にある。運動によってセロトニンやノルアドレナリンなどのバランスが保たれ、結果として記憶力が増したり、イライラなどの衝動性が抑えられるという。
この研究をきっかけに、学業成績はBMI及び有酸素運動と最も関連の深いことが明らかになった。つまり、おデブちゃんが成績を上げたかったらジョギングしよう、というワケだ。第二章以下ではマウスの実験などのデータを紹介し、様々な心の病、たとえばパニック障害克服のための具体的提案も書いてある。今日から僕の臨床にも取り入れようと思っている。何しろ副作用がなく、タダで出来るのだ。
この本の優れた所は第三章「ストレスー最大の障害」の記述に象徴的に表れている。
一般にストレスは悪いもの、避けるべきものと捉えられがちだが、レイティ博士は違う。筋肉増強にはいったん筋繊維を壊して休ませる必要がある(インタバル・トレーニングが好例)。ニューロン、つまり脳も同じなのだと博士は言う。ストレスを避けずに生きる事の重要性。
定期的有酸素運動は体を安定化させてストレス毒性を減らす作用がある。同時に酸素は体を傷つけるフリーラジカルを発生させる両刃の剣でもある。ブロッコリーは抗酸化作用でがん予防食品の代表格だが、実はスルフォラファンという有害物質も含んでいる。この物質のお陰で虫に食べられずに種を保存できるのだ。これは実に示唆に富む話ではないか。
と、ここまで付いて来られた忍耐強いあなたなら本書を手に取りたくなるはずですが、、、。

生きとし生けるものには、長年の進化で身につけた自然回復力がある。それに従うのが最も合理的であり、その歴史上、大半を狩猟生活で過ごしてきた人類にとって、「運動」は最高のレメディ(治療薬)なのだ。
この本の扉の言葉を最後に載せておこう。
人生において成功するために、神はふたつの手段を与えた。教育と運動である。しかし、前者によって魂を鍛え、後者によって体を鍛えよ、ということではない。その両方で、魂と体の両方を鍛えよ、というのが神の教えだ。
このふたつの手段によって、人は完璧な存在となる。ーープラトン