当院の所在地、愛知県一宮市で週末、「第60回おりもの感謝祭一宮七夕まつり」が開催された。繊維のまちの商業的発展を目指して始まった”日本三大七夕”はことし還暦を迎え、最終26日は東京ディズニーパレードまで繰り出しての賑わいとなった。そこで今回は地元一宮にまつわるムービーの紹介編。

『宇宙の法則』(井筒和幸監督1990年)
映画は東京駅新幹線ホームでの二人の男の会話から始まる。古尾谷雅人扮する売れっ子アパレルデザイナー正木良明が、郷里一宮で機(はた)織り業を営んでいた父の急死のため帰郷する。会社上司役の寺田農が見送る。
 「名古屋まで?」。「2時間です」 
 「そんで?」。「40分かな」
 「2時間か」。「2時間40分です」
 「近いね」。「遠いですよ」
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 「おまえ、故郷(くに)に帰ったら、まだ赤ん坊だぞ」・・・
いま、東京名古屋間は『のぞみ』で1時間45分だし、名古屋一宮間はJR快速11分。映画は昭和60年代の設定だ。それにしても良明の言う「遠い」とは彼の故郷への心理的距離を表している。同じ一宮生まれで大学から東京に出た僕にはそれが実感できる。
その後、父の葬儀の回想シーンで兄(長塚京三)とけんかをする良明。「おまえは次男で好き勝手東京でやりやがって」と言われ、土地と家を売り払って機屋を畳もうとする兄に殴りかかるが、結局、売ったのは機械のみだった。良明は兄と仲直りし、地元で新たな生地デザイナーとして家業を立て直す決意を固める。
ちょうどそのとき、竹中直人演ずる同級生が助け船を出してくれるが、仕事が軌道に乗りかけた矢先、商売相手にだまされ、繊維業界で生き残る困難さに直面する。良明は雨の中を奔走するうちに過労がたたり肺炎になってしまう。ラストシーンでは入院先で鼻管カニューレをつけ、チアノーゼの唇で仕事の予定をつぶやきながら、家族に見守られるなか息を引き取る、、、。
ストーリーを考えた時、最後で主人公を死なせる必然性があったのか判然としない気持ちはあるが、なんといってもこの映画の魅力は、”いちみや”が散りばめられている点だろう。
良明の帰郷シーン。尾張一宮駅は今のピカピカ i-ビルと違い、コンクリむき出しの、おじさん世代には馴染みの駅だ。七夕飾りのクスダマが映っている。自宅のロケ地はおそらく尾西地区あたり。田んぼに建つ「のこぎり屋根」が機織りのまちを象徴する。早朝、郵便受けに届くのは中日新聞。兄と和解する木曽川土手では濃尾花火がスクリーンを彩る。そして、良明が雨に倒れたのは、昭和最後にロケした七夕まつりの真清田神社だ。

七夕伝説では、織姫は機織り上手な娘で夏彦(牽牛)も真面目な牛飼い。天帝は二人の結婚を認めたが、その後夫婦生活にかまけて機を織らず、牛を追わなくなった二人を天の川で隔てた。7月7日のみ逢瀬を許したわけだが、雨にたたられると出会えない。
七夕まつりの雨にやられた良明こと古尾谷雅人はその後、45歳で自裁の道をたどった。昨年春、開院時のコラム(『ヒポクラテスたち』2014.4.6)で紹介した映画の主人公を演じたのが彼だった。元女優の妻によると、晩年は信条に合わぬ役柄を引き受けないため仕事が減り、借金からアルコールに逃げていたともいう。牽牛になり損ねたのだろうか。