7月20日は「海の日」。国民の祝日の中では制定(平成8年)から日が浅いが、起源は明治天皇の汽船による巡幸を基にした「海の記念日」だから、由緒ある祝日ともいえる。東京・葛西臨海公園では、水質浄化の努力が実り、半世紀ぶりの都内海水浴場オープンで賑わった。夏だ海だというイメージ全開のこの日、実は「空」にも深いつながりがある。

1969年7月20日、アメリカの有人宇宙船アポロ11号が人類史上初めて月に着陸した。米ソ冷戦時代のさなか、その8年前ケネディ大統領が宣言した通りに国家の威信をかけた大事業が成し遂げられた。地球の6分の1の重力しかない月面に降り立ったニール・アームストロング船長の言葉がまばゆい。
「これはひとりの人間としては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」。
翌年の夏休み、大阪万博に家族と出かけた一宮の小学生が何より見たかったのが、地球に持ち帰られた「月の石」だった。ドーム型展示館に入るため、2周分の行列に汗だくで並んだ記憶がある。
アポロ11号からちょうど7年後の同じ日、米探査機バイキング1号が火星着陸に成功した。ニューメキシコの砂漠地帯を思わせる荒涼とした電送映像に”火星人”は写っていなかった。

僕は最初の大学(法学部)のゼミで「宇宙法」を専攻していた。宇宙に法律があるなんて、それまでは思いもしなかった。当時、名だたる法律ゼミに入る気がなく、単位も取り易いとの事前情報程度で入ったとおもう。教授は穏やかな人で、小人数の学生仲間も付き合いやすかった。
宇宙法とは、1959年国連で設置された宇宙空間平和利用委員会の所管で作成された宇宙5条約のこと。中心となるのが1967年発効した宇宙条約(正式名称は「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」)。アポロ11号の2年前のことだ。
宇宙条約では宇宙空間の探査がすべての国の利益のために自由に行えるとうたい、国家領有権の主張ができないと定めている。核兵器などの大量破壊兵器を地球周回軌道に乗せる事やミサイル配備も禁止している。
同条約には日本、米国、中国を含め127か国が署名または批准している。”スターウォーズ”は少なくとも法律上は生じないはずなのだ。

真空・極低温の宇宙空間とちがい、海抜ゼロメートルの世界では熱い闘いが続く。安保関連法案もつまるところ、中国の東・南シナ海進出に頭を悩ます米国と、同国51番目の州に事実上なっているわが国の立場がある。
海洋法は学んでいないが、資料によると宇宙条約同様、国連海洋法条約が1994年に発効している。領海や公海、資源の探査、開発、保存に関わる排他的経済水域などに関する取り決めが細かくなされ、165の国・地域とEUが批准している(2013年4月現在)。困ったことに米国が批准していないのだ。もっとびっくりなのは、中国が批准していることだが。

海という字は、へんがかんざしをつけた女性(母)を表す。フランス語で海[LA MER]は女性名詞だ。
母なる海――尊敬する歌手のひとり、加山雄三さんの代表曲に『海その愛』(岩谷時子作詞1976)がある。
♪ 海に抱かれて 男ならば たとえ破れても もえる夢を持とう ~中略~
  海よ俺の母よ 大きなその愛よ 男のむなしさ ふところに抱き寄せて 忘れさせるのさ 
  やすらぎをくれるのだ ~♪
聴いたことのない人はご本人(弾厚作名義)作曲による雄大なメロディーをぜひ味わうべし。

アポロ11号が降り立った月の地名は「静かの海」。