台風11号の到来した16日は、わが国政治史上の転回点となった。集団自衛権の行使容認を柱とした安保関連法案の衆議院本会議での強行可決。55年前の新安保条約強行採決がデジャ・ヴュ(既視感)のように甦った世代もいるに違いない。

寄せては返す波のように降る雨の中、産業医として働く会社に車を飛ばした。(産業医の役割については当ブログアーカイブ『会社のお医者さん』(2014・7・20)ご参照)。地元自動車部品メーカーT社の健康推進センターで十年来働いてきた。
診察室に着くやいなや、美しい女性2人が近寄ってくる。手にはクッキーのプレゼント。もちろん愛の告白ではない。今日が僕の誕生日であることを知る保健師らスタッフが気を使ってくれたのだ。「いつも真剣に社員さんに向き合ってくださって、私達の相談にも乗って下さってありがとうございます♥」の添え書きが”やる気スイッチ”を入れてくれる。きょうはいつにも増して面談の多い日だ。
T社でも「うつ」に悩む社員はかなりの数にのぼる。数千人規模の工場なので常勤の統括産業医がいるのだが、メンタル専門ではないので、小生やもう一人の精神科医が嘱託の立場から補助しているのだ。きょうは10人以上の面談があり、そのうち復職検診が4人を数えた。
メンタルヘルスの不調で仕事が出来なくなると主治医から診断書が出る。「うつ状態のため、1か月の自宅療養が必要です」が典型的文面。たいていは引き続き自宅療養の追加診断書が提出され、会社は対応に追われる。療養を続け、回復してくると「復職可能」の意見書を主治医に求め、予備面談を経て復職検診と相成る。
戻るまでには3段階必要だ。まず主治医の許可。次に産業医が復帰OKを出し、最後に会社と復職契約に至る。

きょう検診した歳度打津代さん(38)は製造ライン班長として頑張ってきた。数年前、上からの指示を下になかなか伝えられず、両者のあいだにこころ挟まった形で抑うつ的になり一度休職。元気になって復職したが、張り切りすぎて再度ダウン。今回は持ち場を変更して対応し、三度目の復帰となった。

うつ病は一般に再発率が高い。50%という研究もある。その数字を下げるにはどうしたらよいか?
勤労者の場合、「四つのケア」が基本となる。まずはセルフケア。自らの生活態度の改善から。体力のない者は歩くことから始まる。慢性期のうつは生活習慣病と同じ姿勢で臨むのが良い場合が多い。
二番目がラインケア。ひとことで言えば”ホウレンソウ”つまり報告・連絡・相談の実践だ。ベースに上司と部下の信頼関係が必要なのは言うまでもない。
三つ目が社内資源によるケア。僕がこうして続けている産業医への相談(50人未満の企業では地域保健所が対応)。保健師のいる会社では、彼女たちの役割が大きいことはもっと強調されてよい。
最後が社外資源の活用。メンタルクリニック受診、ということになる。この4つが有機的に働けば、社内うつ病は怖くない。

島国で春夏秋冬をもつ風土が日本人の細やかな民族性を形成したと考えたのが和辻哲郎。繰り返す季節、繰り返す自然の猛威にも耐えてきたわが同胞。さて、以前「うつ状態」(潰瘍性大腸炎もストレス関連疾患)で総理の座を投げだした人が今、歴史の転換点で声高な態度に出ている。実際に主導権を握るのは主権者である国民ひとりひとりのはずだが、さて、、、。