インターネット上で向精神薬を不正販売したとして、兵庫県警は麻薬取締法違反(営利目的譲り渡し)容疑で東京の55歳女性を逮捕した。女性は生活保護受給者から薬を仕入れ、ネットを通じて知り合った相手にメール便で”転売”。口座には2800万円の入金記録があり、自宅から薬2万6千点が押収された――
先日報道されたこのニュース、ネット社会の裏面を象徴しているが、今日は向精神薬の乱用について記しておきたい。

向精神薬で問題視すべきがベンゾジアゼピン [BZ]系。俗に“マイナー”と呼ばれ、統合失調症などに使われる“メジャー”と対比される。催眠作用の強いものが睡眠導入薬に分類されている。その中で有名なのがデパスとハルシオンだ。後者は昔、アルコールと同時服用してラリったり、犯罪に悪用されるなど社会問題になったので有名な睡眠薬(ちなみに睡眠導入薬と意味は全く同じ)。
前者が本日の主人公。国内で最も処方されるBZだ。中には「デパス出して下さい」と指定する患者さんがいる。これには理由がある。
①:歴史的経緯から睡眠薬は30日処方制限があるが、デパスはその制限のない数少ないBZである。
②:デパスの効能には不眠のほかに「肩こり」があり、整形外科や一般内科などで処方されやすい。実際は他のBZでも筋弛緩作用はあるのに、他のBZより効くと信じられている。しかし、実際はエビデンス(疫学的証拠)があるわけではない。
③:半減期(薬が体に留まる時間)が短く、すぐ欲しくなる。つまり依存しやすい。しかも、0.5mgとか1mgの数字を見て、他のBZ(たとえばリーゼ5mg)より「弱い」と勘違いする患者さんが少なからずいる。これはデパスが、同じ効果を出すのに必要な容量を示す単位である力価が高いためで、数字が小さいほど効き目はシャープなことを知らないことからくる。つまり数字が小さいから安全と真逆に思い込んでいるわけだ。
④:一番の問題は、上記①~③を知りながら安易に処方する医師の多いことだ。いま、一宮むすび心療内科でも他から転医してきた患者さんのデパス依存を何人も治療しているが、かなり困難で時間がかかる。ごほうびは離脱できた彼女らの笑顔だ。

舞奈矢目代さん(42歳)は、最も長く診療を続けている女性だ。当初はストレスやパニック発作で悩む人と思っていたが、ある時期から発達に問題(ADHD)のあることに気づき、ストラテラという薬を始めてから劇的に改善した。長らく手放せなかったデパスが、完全ではないがかなり減らせたのだ。「それまでは、やめよ、と思ってもできなかった」と振り返る。
もう一点特筆すべきは、こじれた交友関係を清算できたこと。やはり、発達に問題のあると思われる知人A子とは腐れ縁。お互いパチンコ依存仲間だったが、A子からパチンコ代をせがまれ、万単位で「貸し続けてきた」。返してもらえるあてのないのを知りながら断れなかったのが、自分でもどうして?というぐらい、きっぱり拒絶できた。
舞奈さんが心配なのは、A子がさらに落ちていくことだ。生活保護を悪用して、あちこちの病院でデパスを貰いまくっている。みずから一度に20錠単位で飲んで現実逃避するいっぽう、冒頭のニュース女性のように、周囲に売り歩いているという。

いつも書くようにヒトは、進化の過程で情動をコントロールして文明を発展させる方向に脳を発達させてきた。その「歪み」のひとつが、辺縁系にブレーキのかからない依存症だ。野球でいえばマイナーリーグからいかに這い上がるか。向精神薬の”マイナー”に苦しむ人たちへのメッセージ。