端午の節句にはやはり、青空を泳ぐ鯉のぼりが似合う――世紀のボクシング世界統一戦は”五月の天気”(メイウェザー)が勝ちを収め、ファイトマネー約200億円を獲得したが、鯉[カープ]ときて想いを寄せるのはプロ野球・広島東洋カープの黒田博樹投手(40歳)だ。昨年まで大リーグ・ヤンキースに在籍し好成績を残しながら、本年度20億円の契約提示を断り、「あとどれくらい投げられるかわからないから」と古巣復帰を果たして、ファンからその男気(おとこぎ)を讃えられた。

その大リーグで先日、特記すべき出来事があった。
メリーランド州で警察に拘束された黒人男性の死亡事件に抗議した黒人住民らが暴動を起こした。そのあおりを受け、地元球団オリオールズとホワイトソックスが史上初の無観客試合を行った。抗議デモが放火にまでエスカレートしたための措置で、観客の安全確保が目的。とはいえ、球場スタンドに誰もいない空間での試合は、異様な雰囲気だったに違いない。
黒人大リーガーといえば必ず引き合いに出されるのがジャッキー・ロビンソン(1919-1972)。黒人初の大リーガーとして活躍、後進の黒人選手に道を開いたことで有名だ。背番号42は全球団で永久欠番になっている。
20世紀前半の大リーグは有色人種排除の方針が徹底していて、いくら有能でも彼らは別リーグでの活動を強いられた。そこへバスケットやフットボールも大学時代にこなした万能プレーヤーのJ・ロビンソンが、大リーグ入団を正式に認められたのだった。その陰には、宿泊どころかトイレも別々だった黒人選手の待遇改善を訴えた彼を評価する関係者たちの存在があった。
ここで話は日本の昭和40年代に移る。僕が少年時代もっとも影響を受けた漫画・アニメ『巨人の星』に出てくる黒人選手、アームストロング・オズマのことだ。
梶原一騎お得意の、事実と創作のミックスで生まれたカージナルス(実在球団)の外野手。幼いころ貧しさからパンを盗んだときの運動能力を買われ、同球団に身売りされる。徹底的な科学的訓練を受け「野球ロボット」として成長。日米野球で来日した際の凄腕に目を付けた星一徹の下、中日ドラゴンズで打倒星飛雄馬をめざす設定だ。背番号13。見えないスイングで大リーグボール1号を攻略するが、消える魔球2号を打ち崩せず失意のまま帰米する。
おそらく、オズマのモデルはJ・ロビンソンだと僕は睨(にら)んでいる。名字のアームストロングは当時、アポロ11号で人類史上初の月面着陸を果たしたニール・アームストロング船長から拝借したはずだ。
その後、TVアニメでオズマの消息が放映された。帰国後大リーグで三冠王に輝くが、ベトナム戦争に召集される。周囲の反対を尻目に戦地にむかうオズマ。しかし爆弾の破片が背中に食い込み、それがもとで脊髄損傷、車椅子生活となり、死を迎える。
貧困に耐え、過酷な訓練に耐えたのちも国家に翻弄されたオズマ。それはそのまま、黒人大リーガーの写し絵であり、梶原が原作に込めた差別へのプロテスト[抗議]だったとはいえまいか。

”ベテラン鯉”投手・おとこ黒田の座右の銘は「雪に耐えて梅花麗し」。西郷隆盛が甥に贈った漢詩の一節だ。つらい時期を乗り越えてこその開花と知るべし。野球に関心のない読者にも伝えたかった本日のコラム。