昭和の日=羊肉の日(4・29)前夜、ブドーカンが揺れた――ポール・マッカートニーが東京・日本武道館で公演した。ビートルズ時代に同じ場所で演奏して以来、49年ぶりの熱唱にファンは酔いしれた。TVでは、往時と今回のコンサートチケット2枚をかざすコアなおじさんを映し出していた。前回の記憶は残っていない僕だが、ビートルズ解散後はリアルタイムでポールの全アルバムを聴き続けてきた者として、思い出すことどもを記しておこう。

今や若者が音楽を聴くのはi-tune全盛、だがビートルズ武道館公演(昭和41年)当時はレコード(LP)盤だけだった。世界初のCDプレーヤー発売は昭和57年(1982)だから、いつの話だっけという時代。
中学1年の春。メカ好きの級友G君と大須のアメ横電器街をうろついて、「チューナーはTRIO、スピーカーはYAMAHAで決まりだて」などと侃侃諤諤(かんかんがくがく)言い合いながら、親ねだりのオーディオセットを揃えた。
初めてDENONのレコードプレーヤーで聴いたのがビートルズ最後のアルバム『LET IT BE』。まだ当時の英語力では歌詞の意味も十分わからぬまま、レットイットビーを「エルピー」と口ずさんでいた。あれから40年が経ち、世間ではアナと雪の女王『LET IT GO』を「レリゴー」と歌っている。
技術家庭科は授業が男女別で、教科書もそれぞれだった。ハンダごてで簡易ラジオを作った時のぷーんとした鼻を衝く臭い。超LSIデジタル時代の今では有り得ない授業風景。生徒を叱るのに教壇からスリッパを飛ばしたA先生のヤクザ顔が懐かしい。

ビートルズ解散後に出たポールの2枚目ソロアルバムが『ラム』(RAM)。成熟羊肉をマトン、若い羊肉をラムというのは聞き覚えがあったので、そう思って調べると少し違った。
英単語で子羊肉は lamb 、ポールのアルバムの題 ram は雄羊のこと。ちなみに羊全般は皆知っている sheep だ。
そのときはアグネス・ラム(知らない人ゴメン、調べてね)に想いを馳せておしまい、だった気がする。ところが今回、ポールの半世紀ぶり武道館公演を機に気がついたことがある。
当時、音楽評論家の間ではポールの評価は散々だったらしい。エリザベス女王から勲章を得、社会現象にまでなったビートルズ解散のきっかけがポールの言動とされたことから、指弾されたようだ。もっとも、僕ら少年リスナーはそんなことはお構いなし。いい曲はいい、と聴き惚れていた。後になってこの時期の評価は反転するのだが、いかに「大人の耳」がいい加減なものかがよくわかるエピソードだ。
当のポールはそんな風評どこ吹く風といった体(てい)でアーチスト街道を邁進してきたように見える。去年は病気で急きょ取りやめた日本公演だったが、そのリベンジにと今年、72歳にして「ヒサシブリ、ブドーカン」の掛け声とともに28曲を歌い続けるエネルギーが、そのことを証明している。

sheep には羊のほかに次の意味がある。 *愚か者、臆病者、独創力のない人
ram       には(去勢されていない)雄羊のほかに、激突する、考えを貫き通す、という意味がある。
僕がインタビュアーならこう訊いてみたい。「あの名盤のタイトル”ラム”にはどんな思いを込めたんですか?」