今週も心の問題に大きく関わるニュースがあった。聖マリアンナ医大病院(川崎市)で、精神保健指定医(以下指定医)の資格を不正に取得したとして、厚生労働省は同病院精神科医師20人の資格を取り消した。
おそらく精神科以外の医師も含め指定医について詳しく知る人は少ないので、本日のコラムで取り上げる次第。

精神障害という言葉は、おどろおどろしい。おそらく多くの人にとって身体障害との対比(ポジネガ)として捉えられているのではないか。つまり、基本的には「治らない」病気というイメージである。実際はそうではないにもかかわらず。
身体障害に関しては、医療技術の進歩(例:下半身不随でも電気刺激で動けるようになる)により、またパラリンピックやバリアフリー化など障害への社会的取組の甲斐あって、周囲の視線が昔より柔らかくなったように感じる。
いっぽうで精神障害にかんしては、いまだスティグマ(偏見)は取りきれていないようだ。「こわい」「避けたい」という感情を持つ人もいるだろう。その大きな要因が”目にみえない”ことにあると考えている。ある意味それは放射能と同じだ。(だから被爆者への差別は根強い)。

精神障害の症状で大きな問題のひとつが、自分や他人を傷つける事(自傷他害)。精神保健福祉法は自傷他害のおそれのある場合、本人の承諾なく強制入院させる権限を指定医に認めている。これには大きく2つある。
①行政が入院の管理者となる措置入院(指定医2人の診断が必要)
②家族の同意を得て入院させる医療保護入院。
特に前者は病状が重い場合で、都道府県知事が告知し、身体拘束や隔離など行動制限が行われることが多く、入院も長引くことがある。人権侵害に慎重な対応が求められるのは当然だが、これが都道府県によって措置率に大きな差がある。地方税率に差があるなどといった事とは訳が違う。もちろん精神障害にそれほどの県差はない。
さまざまなな課題を抱える精神医療。しかし、現場ではそれを乗り越えて目の前のことに対処しなければならない。症状を管理するために24時間監視つきの保護室に入室してもらったり、手足や体をベッドに固定させてもらうこともある。
自傷他害は精神障害者の「見えない心の叫び」でもある。その治療に携わる医者の資格に不正があったらどういうことになるのか。指定医の端くれとして襟を正さずにはいられない事件。彼らの叫びにどう耳を傾けるのか、模索の道は続く。