フランス議会(下院)で先週、やせ過ぎモデルを禁止する法案が可決された。体格指数が平均の約8割以下のモデルを雇用した業者は、最長禁錮6か月の実刑か罰金7万5千ユーロ(約970万円)が科される。また、「拒食症」容認ウェブサイトも違法化され、必要以上に細さを美化すると犯罪とみなされる。

「拒食症」患者さんの通院する当院でも無関心ではいられないニュースだ。同様の法律はすでにスペイン、イタリア、ベルギー、チリ、イスラエルなどで成立しているが、ファッションの本場で施行されることに意義がある。業界は「拒食症とファッションは別だ」と訴えているが、おそらくこの勢いは他の先進国にも広がるだろう。問題はわが国でどうなっていくかだが、、、。

ここで、「拒食症」について説明しておきたい。
正式には「摂食障害」(Eating Disorder:ED)という。EDは大きく神経性無食欲症(Anorexia Nervosa:AN)と神経性大食症(Bulimia Nervosa:BN)に分けられる。前者が拒食症、後者は過食症と通称される。神経性とは、癌や消化器疾患など身体的理由によらないという意味で、体重が標準より極端に少ないかどうかでANかBNかが決まる。本質的には同じ疾患だ。
体重を身長の2乗で割った数字がBMI(Body Mass Index)で、平均が22。これが18以下で、月経が続けて来ない状態がANにあたる(女性の場合)。当院では体重30㎏そこそこの患者さんが何人も治療を続けている。男女比は1:10と圧倒的におんなの病気。10代でダイエットを始め、気が付いたらANになっていたというケースが典型的。
きっかけはボーイフレンドやクラス仲間、家族からのひとことが多い。「ぽっちゃりしたね」「顔が丸くなったね」など、声をかける側は思いもよらぬことが多いので気を付けてほしい。ただ最近は発症が”高齢化”し、出産後に発病したり、若いころに患った女性が中年になって再発するケースも目立つ。
以前のブログ(10・16『飽き満ちることのない食欲』)でもお伝えしたように、彼女たちは自由意思で食べなかったり、食べ過ぎるわけではない。脳が拒んでしまうのだ。その有名な証拠がある。
第二次世界大戦さなか、米国ミネソタ州である実験が行われた。戦争で低栄養状態に陥った者の治療法開発のため、頑健な男性兵士数十人を集め、摂取カロリーを通常の半分にして半年過ごさせたあと栄養リハビリを行った。体重が25%減少した彼らは抑うつ状態となり、自己否定が強く常に食物のことばかり考えるようになった。盗食、残飯あさりが横行、回復期には過食が続いた。
このミネソタスタディは、いちど拒食が続くと、本人の気持ちとは無関係に食行動異常が生じる事実を示したものだ。そして痩せ礼賛の風潮が強いなかでは、その圧力が摂食障害発症のきっかけとなりうることを皆が知るべきと思う。同時にこれは飽食社会の裏面としての病理であることを指摘したい。

ことしは未(ひつじ)年。漢字では羊。美の語源は「大きな羊」とされる。痩せることが美につながるというのは大いなる幻想である。