春のお彼岸連休、東京・西新宿で月経関連医学研究会があり、新幹線で出かけた。きょうはその報告。
東京慈恵会医大精神科中山和彦教授が世話人代表で、今年で11回目。精神科なのにどうして月経?と思われる方もいるだろう。 
非定型精神病という心の病気がある。統合失調症と躁うつ病の両方の症状が出て、通常の分類に当てはまりにくい 疾患概念なのだが、圧倒的に女性に多く、生理周期に合わせて病状の悪化することがある。
中山先生若かりし頃、この病気の女性と出会い、ライフワークとされたそうだ。同医大産婦人科の落合和徳教授と共に研究臨床に没頭した。僕自身、小児科と心療内科の揃ったマタニティ病院で働いていた時期に研究会の存在を知り、参加し続けてきた。
毎年、月経の仕組みと心の在りようにつながる講演や症例発表がある。今年は国際ウィメンズメンタルヘルス学会日本開催と重なり、「虐待」がテーマとなった。月経と虐待がどう関係するのかも興味深いところだが、幼少時に虐待歴があると月経不順に陥りやすいという研究がある。
冒頭、心的外傷後トラウマ障害(PTSD)を専門とする医師による解説があった。
怪我をすれば自然にかさぶたができて傷が修復されるように、人の心にも自然回復力がある。ある調査によると、3次救急患者の3割がうつ病や不安障害、PTSDになる。これら精神疾患の有病率と比べて高い数字だが、見方を変えれば、7割は放っておいても良くなる、ともいえる。
しかし、いったんPTSDになると事件の記憶が歪んでしまい、自分自身を冷静に保つことが出来なくなる。淡々と過去を振り返る様子から周囲には普通と思える時期があるが、それは茫然自失状態で心に鍵がかかった結果に過ぎない。なので、何らかのきっかけでつらい記憶がフラッシュバックすると、感情が暴発してコントロールできなくなる。破壊された記憶の断片を丁寧につなぎ合わせる治療が求められるゆえんだ。
PTSDになる率は男女ともに同じだが、その理由が異なる。国際比較では男性は戦争、女性はレイプ被害者が際立つ。わが国でも家庭内暴力(DV)や性的暴力で苦しむ女性がいる。問題の性質上報告されない例も多いはずとシンポジウムで発表した産婦人科医は強調した。10歳以下や60歳以上の例もある。
こうしたケースをどう救ったらよいのか?続いて登壇した精神科医2人は、DV被害母子の治療として、親子相互の交流を図る治療法(PCIT)を推奨した。
日本でもまだ専門組織が立ち上がって4年目の新しい療法。基本は2段階の交流技法で、最初は子ども主体のやり取りを続ける。子どもをほめ、繰り返す。質問や指示は禁物。この段階を経てから親主導の躾(しつけ)に入っていく。その際必ずアセスメントで評価し、現状把握を忘れないことという。PCITで劇的によくなった5歳の男の子の例が報告された。2歳のときはDVシェルターも出所せざるを得なかった症状が改善し、今はにこにこと母との遊びを楽しむという。
最後に、オランダから来日した国際ストレストラウマ学会会長のミランダ・オルフ女史が妊娠とトラウマについて講演されたが、これは別途報告をしたい。

今年は思いのほか重いテーマの月経関連医学研究会となった。新宿での開催は多分最初で最後だろうが、旧世代のむすび院長は藤圭子のデビュー曲『新宿の女』(石坂まさを・みずの稔作詞、石坂まさを作曲)を思い出していた。
♪私が男に なれたなら 私は女を捨てないわ、、、私を見捨てた 人なのに バカだな バカだな だまされちゃって♪
待ち時間に会場ホテル隣の東京都庁に出向いた。45階の無料展望室に上った。春霞に隠れて、富士山は望めなかった。