春眠暁を覚えず。とは云うものの、現実には寝られないと訴える患者さんが多い。きょう3月18日は世界睡眠デー。
日本人の睡眠時間は年々減少している。これに呼応して不眠に悩む人も増加し、いまや5人に1人が不眠症の時代。これには社会生活の変化が大きく関わっている。スマホやインターネットで夜更かしが常態化し、お腹がすけば24時間コンビニが待っている。

当コラム読者に是非とも覚えておいてほしいのは、眠れないからといって、すぐ睡眠薬をかかりつけ医に頼まないことだ。当院には不眠で他院から紹介されたり、みずから来院される方があるが、ベンゾジアゼピン(BZ)系と呼ばれる睡眠薬を処方されていることが大半。ここに”落とし穴”が隠れている。
内科外来など専門治療に忙しい実情を知る立場としては、「眠れません」と言われ「ではおクスリを」という展開はわかるが、やはり問題が潜んでいる。各科の先生方には処方箋を書く前に睡眠日誌を患者さんに記入してもらい、睡眠衛生指導をしていただくよう求めたい。BZ系は昔の睡眠薬に比べると安全で効果も高い反面、欠点もあるからだ。
BZ系薬の薬理作用の中心は①抗不安作用②筋弛緩作用のふたつ。気持ちを静めて眠りに入りやすくなるが、高齢者や呼吸器疾患を持つ人には負担となる。夜間トイレに起きてふらつき転倒。前向性健忘のために、翌朝覚えていない、ということもありうるし、こうした経験で睡眠薬恐怖症に陥る人もいる。上手に使えば効果的なBZ系だけに留意すべき点だ。
筋弛緩作用の少ないタイプの睡眠薬(ゾルピデム)も出ており、うまく使い分けたい。ただし、別の問題点として依存形成がある。要は「止められない」ということ。この点を心配される患者さんは多いが、徐々に減らしていく医師の指導を守れば、きちんと止められる筈だ。一時的にほかのタイプのくすり(抗うつ薬など)を併用することもあるので覚えておいてほしい。
かなりの患者さんが勘違いしていることを2点、指摘しておきたい。
ひとつは「睡眠薬」(睡眠導入剤と同義)と「安定剤」を別種のクスリと思い込んでおられる方が多いことだ。
安定剤には2種類あり、メジャートランキライザーとマイナートランキライザーに分かれる。このうち「マイナー」はBZ系そのものだ。正式には「抗不安薬」といい、その中で睡眠作用の強いタイプを「睡眠薬」と呼んでいる。デパスが不安なときにも不眠にも、さらには肩こりにも使われるのは、そういった背景があるからだ。
もうひとつは「夢を見るので、眠れていません」と訴える方の多いこと。夢はREM睡眠という時期に見る。REMとは眼球急速運動の略で、夢を見ているときに目をこじ開けると、くるくる回っていることから名づけられた。もちろん本人は眠っている。およそ90分に1回の割合で生じる。なので心配は無用だ。悪夢に悩むときは、また別にご相談に応じます。
最近は睡眠のメカニズムも研究が進み、BZ系以外の仕組みによる睡眠導入薬が増えた。
メラトニンという体内時計をコントロールする物質を増やすことで睡眠リズムを整える薬(ラメルテオン)や、睡眠と覚醒に関与する物質オレキシンの受容体に拮抗して睡眠を維持する薬(スボレキサント)など、新薬をうまく組み合わせて治療していくことができる。一番大事なのは、朝同じ時間に起きて太陽を浴びる、などの生活習慣なのだが。

書いているうちに内容が専門的になりすぎたようだ。読んでいるうちに眠くなってきた皆さん、大丈夫、あなたは眠れますよ。Zzzzzz.........