朝まだ寒きの感はあるが、弥生三月も半ばを迎え、木々の芽吹きに春を感じる時節となった。きょうは「花と蝶」ではなく、「鼻と腸」のお話。

今年はスギ花粉が昨年の2倍とかで、耳鼻科外来はごった返している様子。心療内科の当院でも抗アレルギー薬を求める患者さんが目立つ。いったいどこから湧き出てくるのか?というほどの洟(はな)と涙でうるうるの方もおられ、漢方薬を処方したり、ヨーグルトを勧めたり。
アレルギー(Allergy) とはギリシャ語で、生体の抵抗力(=免疫反応)が有害反応に変わってしまうことをいう。花粉という本来害のないはずの物質に過剰な反応を示して排除しようとする結果があのズルズルだ。抗原抗体反応といい、花粉以外では蕎麦や小麦など食物の場合が典型。アナフィラキシーといって命に関わることもあるので油断は禁物だ。免疫反応の標的が自分の臓器に向かうと膠原病(自己免疫疾患)になる。
我が国のアレルギー疾患患者数は増加の一途をたどっている。文部科学省によると、2002年までの10年間で小学生のアレルギー鼻炎は30%増加、成人の気管支喘息は倍増した。歌手のテレサ・テンさんも喘息で亡くなっている。
ここで勘のはたらく読者諸氏はこう訝(いぶか)しむのではないか。昔と比べて大気汚染など公害は減っているはずなのに、喘息が増えているのはなぜ?じっさい東京都心から富士山を眺望できる年間日数は増加している。高度成長時代と比べ、自然環境は改善しているのだ。
有力な仮説を提唱しているのが東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎さんだ。”回虫博士”として知られた寄生虫学者の訴える高説が、一番真実に近いと思う。(『アレルギーの9割は腸で治る』だいわ文庫)
藤田名誉教授によると、日本で最初にスギ花粉症が発見されたのは1963年。藤田先生の先輩医師が栃木県日光市の例を報告した。有名な日光スギ2万4千本が植えられたは17世紀の江戸時代。つまり、先人はずっとスギ花粉を吸っていたのに発症しなかったわけだ。興味深いことに、アレルギー疾患の増加と反比例して減少しているのが寄生虫疾患と結核。清潔志向が高まる時期に一致する。きれいになりすぎたため、本来なら細菌や寄生虫などに向かう免疫機構に狂いが生じ、花粉がアレルゲン(抗原)に成り代わってしまったというのだ。
僕の子どものころは原っぱに肥溜めがあり、誤って足を突っ込もうものなら大変だった。小学生のとき、便所で大きい方をしたのがわかるといたずらっ子からはやしたてられた。「バイキン!」。いまや、毎春恒例だった蟯(ぎょう)虫検査も中止となった。保有者率がゼロに近づいたからだという。あの糊つき青セロファンを起きがけに肛門に押し当てる”ポキール”は過去の出来事、、、。
と思っていたら、最近マスメディアで繰り返し取り上げられるのが”腸内フローラ”だ。
ヒトの腸内には数百種類100兆個もの細菌の集団が住みつき、まるでお花畑(フローラ)のように叢(くさむら)をなしている。その構成は人それぞれで、それによってある種のビタミンを産生したり、生体を疾患から守ってくれている。善玉菌・悪玉菌ならご存知の方も多いだろう。最新医学の研究成果では、この腸内細菌叢が肥満や糖尿病、はてはうつ病までも関係するというのだ。
古来、日本人はこころの座を「肚=はら」にあると見なしてきた。「肚が据わった人」「肚を決める」、、。きょうだいのことを古語で「はらから」という。文字通り、同じ母から生まれた同胞。
日本列島改造論時代の昭和47年、へそ出しルックで一世を風靡した歌手山本リンダさんの流行歌『どうにもとまらない』(阿久悠作詞、都倉俊一作曲)にはこうあった。「♪あゝ蝶になる あゝ花になる 恋した夜はあなたしだいなの あゝ今夜だけ あゝ今夜だけ もう どうにも とまらない♪」。
アレルギーにお悩みの皆さん。どうにも止まらない鼻水をすすりながら、きょうの「鼻と腸」の話を思い出してくださいネ。