2月22日はボーイスカウト創始者の英国人ベーデン=パウエル卿(1857-1941)の生誕日。ボーイスカウトは162の国と地域で3600万人が加盟する世界最大の青少年活動。ビル・ゲイツら有名人の経験者も多く、宇宙飛行士の野口聡一さんは今も現役の指導者。かくいう一宮むすび心療内科院長も一宮第3団の元スカウト。本日はボーイスカウトのモットー『そなえよつねに』がテーマ。

退役軍人のロバート・ベーデン=パウエルは今から百年前、自らの体験を基にイギリスの島で少年20人と実験キャンプを行った。野外活動を通じて自然から学ぶことで、自立心や社会性、協調性を育成しようというボーイスカウト運動の始まりだった。
すぐに日本にも伝わり、大正11(1922)年には連盟が発足、現在15万を超えるメンバーが活動している。小学校入学時から年齢層に応じ、ビーバー、カブ、ボーイ、ベンチャー(以前のシニア)、ローバーの各スカウト隊に分かれる。各隊はいくつかの班に分かれ、隊長ら指導者の下、キャンプやハイキング、地域奉仕活動などに従事する。甲子園野球で出場校カードを捧げ持ち、先導行進するスカウトの凛とした姿を思い出す人もいるだろう。
スカウト活動での行動規範が「おきて」だ。小5から中3までの少年が所属するボーイ隊では8つの「おきて」(以前は11)がある。スカウトは<誠実である>に始まり、< >の中の言葉に「礼儀正しい」や「勇敢である」などの約束が掲げられる。隊員は団旗を前にし、右ひじを直角に曲げ三本指を立てた特有の姿勢で「おきて」を暗唱する。その精髄は「ちかい」に記された①体を強くし②心を健やかに③徳を養う――の3点に集約される。そなえよとは、この三つを常に目指せということにほかならない。
その結果、「いつも他の人々を助けます」という奉仕精神が自然と身に着いていく。むすび院長のころはかなり厳しい指導もあったが、以前は別団体だったガールスカウト女子も、現在は同じ隊に所属して行動をともにするなど、時代に合わせて組織も変わってきた。

昨今のわが国を見渡せば、地震に噴火、土砂災害と自然の猛威にさらされる一方、留め金が錆びて落下したビル看板に頭を直撃された札幌の女性に代表されるように、われわれは常に「危険」と隣り合わせで暮らしている。
医療分野でもリスク・マネージメント(危機管理)が普及浸透している。”ヒヤリ・ハット”という言葉に聞き覚えのある方も多いのではないか。これは、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり300件のニアミスがあるとするハインリッヒの法則をもとに、できるだけそうしたリスクを減らそうという対策を表したもので、正直なところ日常診療でのヒヤリ・ハットゼロ、という訳にはいかない。
定期的にスタッフ会議を開くなど反省の日々のなか、僕にとっての羅針盤が『そなえよつねに』なのだ。プリンタのインク、トイレットペーパー補充から始まり、患者さんの心と体の変調を素早くキャッチすることまで、この7文字はつねに僕の脳内を駆け巡っている。
ボーイスカウト時代、1級章を保持して班長を務めてから40年近く経つ。いまだに「もやい結び」という絶対ほどけない救助ロープの結び方はこの両手が覚えている。人と人、心と体を結ぶこと。わが人生の終わらぬテーマ。