京都アニメーション第一スタジオが放火され、34人が死亡した事件から一週間。41歳の犯人の男は窃盗、強盗歴があり、火を放った直後「小説をぱくられた」など、事実と異なることを叫んだと報道された。
 重症火傷で入院中の男から供述の取れない段階で軽々なことは言えないが、日本が世界に誇る文化であるアニメ制作現場で起きた事件は、海外でも広く報道される形となった。

 犠牲者の冥福を祈りながら思いは、3年前に起きた相模原市・津久井やまゆり園障害者殺傷事件に及ぶ。元職員の被告人Uは、自分の名前や住所の言えない重度障害者を「心失者」と呼び、人間の幸福のために彼らを安楽死させるという考えを実行に移し、19人の命を奪った。
 Uは精神鑑定で「自己愛パーソナリティ障害」と診断された。統合失調症などと異なり、パーソナリティ障害では理非弁別はつき、自分の行為に責任能力はあると認定されるのが通常だ。京アニ事件とはおそらく異なる精神障害のようにも思える。

 しかし、問題はより根深いと感じる。最近当院を訪れた患者が、やまゆり園事件を肯定するのを聞いて、考え込んでしまった。「犯罪にならなければ、僕も彼と同じことをしたいですよ」。
 先日の中日・東京新聞〔元記者の心身コラム〕でも取り上げたが、Uはメディアの質問に、「人の幸せはおおよそ金と時間」と答えている。彼のような存在を支えるSNS上の声がいまだに後を絶たないのを見るにつけ、今の日本の生産性至上主義に対して言いようのない憤りを感じてしまう。
 毎年この時期、やまゆり園事件の意味を問い直すブログを書き続けるわが心に潜む“核(しこり)”。言葉を治療道具とする因果な仕事を選んだ者として、背筋を正さざるを得ない。