梅雨の真っ只中、映画「新聞記者」(藤井道人監督)を観てきた。一昨年秋に出版された同名著書(望月衣塑子・角川新書)を読んだ河村光庸プロデューサーが、民主主義に暗雲垂れ込める現状を象徴するかのような権力・メディア関係の変化に楔(くさび)を打ち込む姿を著者に見出し、著書を原案としてフィクション化した社会派ドラマだ。
 すでに広く知られている通り、望月さんは東京新聞(中日新聞)社会部記者として取材活動にいそしむ日々を送っている。個人的なことだが、僕はかつて、中日新聞記者として約7年間、東京に在籍した。望月さんとは昨年、名古屋で開催された私学サマーセミナースクールで、彼女が講演した時にお会いした。小さな体のどこからあれだけのエネルギーが出てくるのか、著書「新聞記者」を読み、おぼろげながら分かった気がしていたので、この夏の映画化は楽しみにしていた。

 東都新聞社会部の吉岡エリカと内閣情報調査室(内調)のエリート官僚杉原拓海が主人公。医療系大学新設の極秘文書が東都新聞にファクスされる場面から映画は始まる。〔余談だが、この場面は 実際に日比谷の東京新聞で撮影されたという。30年前、あの場所にいた自分が”フラッシュバック”した〕。
 シム・ウンギョン演じる吉岡が取材開始すると、事件の糸は松坂桃李演じる杉原の元上司神崎に繋がっていく。突然の神崎の自殺の真の原因はーーー。
 ストーリーはフィクションでも、エピソードの一つ一つは実際の出来事をほうふつとさせるものであったり、前川元文部事務次官と望月記者らのテレビ討論のニュース映像なども交えた演出で、スピード感あふれるサスペンスものといった趣。政治に関心の薄い人たちにも楽しめるエンタテインメントに仕上がっている。
 ラストシーン、国会前の交差点の両端で、杉原が吉岡に語り掛けた言葉はスピークアウトされている。4文字くらいの口の動きは、なんという単語だったのか。再度観る機会があれば、考えてみたい。