3日は文化の日。日本国憲法公布(明治天皇誕生日)が由来。気象学的には晴れの特異日として知られる。毎年、文化勲章親授式とともに各種褒章伝達式が執り行われるが、今年は歌手の桑田佳祐さんらが紫綬褒章を受章した。

サザンオールスターズのデビュー曲(36年前)はよく覚えている。沢田研二の「勝手にしやがれ」とピンクレディーの「渚のシンドバッド」をただ繋いだ曲名。平成のラップ音楽なき時代の、語尾巻き舌C調言葉のノリ。「いま何時!そーね、だいたいね」は今も耳に残る。
以来、ポップミュージックの表街道をひた走ってきた。そのリーダーが国からご褒美の章をもらう時代。「ずっと目立ちたい一心で、下劣極まりない音楽をやり続けてきた」と自嘲するのも彼らしい。その一方「大衆芸能を導いて来られた数多(あまた)の偉大なる先達たちのおかげ」と感謝の言葉を忘れない。食道がんから復活したせいもあるのだろう。(個人対象なのでやむを得ないが、できればサザン全員に受章してもらいたかった)。

芸術の秋に音楽関係者受章の報を聞いて感じるのが、精神疾患治療としての音楽療法だ。これは「音楽の持つ生理的・心理的・社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」(日本音楽療法学会の定義)。
僕流にアレンジすると、「耳を通した非言語的心身療法」となる。音楽療法も言葉は使うのだが、言葉の意味を知らずとも成立するのがこのセラピーの特徴だ。だから、脳卒中で言葉が出ない人にも、いやだからこそ音楽が有効となりうる。亡くなった田中角栄元首相は脳梗塞で右半身不随となり、言葉も出なかったが、リハビリで黒田節を歌う練習を続けた。
ただし、音楽療法はいまだ滲透しているとは言い難い。同学会のカリキュラムでセラピストへの道は開けるのだが、国家資格ではないし、療法自体が保険診療の対象になっていない。

最近出た医師向けのリーフレットで音楽療法の特集を組んでいた。そこには音楽療法の専門家でもある精神科医、阪上正巳・大谷正人両氏の対談記事が載っていて興味深く読んだ。おふたりによると、40年間統合失調症の患者さんと音楽セッションを続けてきた作曲家・チェロ奏者の丹野修一さんは次のやり方で成果を挙げている。
ひとりの患者さんが1音か2音を繰り返し奏でるだけのシンプルなもので、それを合奏すると「芸術的音楽空間」が現れるという。患者さんは音楽の歓びを体験し、他者の音に合わせる認知トレーニングにもなるとのことだ。
大谷先生は広汎性発達障害など障害児への特別支援の場で「調性のある音楽」を導入すると効果が高いと訴える。
実は当院に通う患者さんの中にも音楽療法士の女性がいる。彼女は日々、自閉の子や認知症のお年寄りにセラピーを行っている。ぜひ続けてほしいものだ。

このリーフレットに寄稿した精神科医、松波克文氏は、患者さんが音楽を楽しむようになると病気が快復に向かうことが多いと書く。僕は治療としての音楽療法を支えるのが、”歌”そのものと思う。
日常生活のあちこちに潜む心の病の傷口を日々癒すのが歌ではないか?(くちびるに歌を、こころに太陽を)。日常のことを、ハレ(晴れ)に対して、ケ(褻)という。そのエネルギーが枯渇した状態がケガレ(穢れ)だ。ケを回復するのに有効な方法が歌であり、音楽なのだろう。
文化の日というハレの日に、ケガレなき日常を取り戻してくれるサザン・桑田が受章。オメデトウ!ケースケ先輩、これからも歌いつづけてチョースケ。