今年のノーベル物理学賞で、青色LEDの開発に寄与した日本人学者3人受賞の報せはまだ記憶に新しい。LED(Light  Emitting  Diode)、つまり発光ダイオードはまさしく、”プロメテウスの火”を手にして以来の人間の歴史を語るうえで画期的な発見、発明であり、科学技術立国ニッポンの将来にとって明るいニュースだ。10月21日は「あかりの日」。トーマス・エジソンが135年前、効率的な白熱電球を開発した日だ。きょうはそのエジソンにちなんだ話。

明治の文明開化の象徴は、ザンギリ頭に牛鍋、そしてガス灯。それからわずか10年後にエジソンが改良したのが、日本産の竹をフィラメントに使い、世に広まった白熱電球だ。彼は、よく誤解されるように白熱電球を”発明”したのではなく、より使いやすくしたのだが、1世紀以上を経た今では同じようなものだろう。そして生涯で1300もの発明をものにした。電球のほかに蓄音機、活動写真、株式相場表示機、トースター、アイロンなど。(書き連ねるうちにドクター中松を思い浮かべてしまった)。
エジソンはそれら発明の一方、数々の失敗をしている。直流送電にこだわり、交流は危険としてあらゆる手段でライバルを妨害したのは有名な話だし、電力会社を立ち上げたが仲間割れを起こし、会社から除名処分を受けたりと、毀誉褒貶(きよほうへん)著しい。
僕のこども時代はナイチンゲールや野口英世らとともに偉人として並び称され、電気ならぬ伝記を読んで感化された記憶がある。それが平成になり、エジソンに対する価値観の転換が起きた。

ADHD(Attention  Deficit Hyperactive Disorder)は、精神科疾患でも最近とみに注目されている。「注意欠陥多動障害」と訳されてきたが、僕はむしろ「注意散漫症候群」とすべきと思う。世間では「片づけられない症候群」として有名になった。注意できない(欠陥)のではなく、ひとつのことに注意を持続するのが苦手(散漫)。
いっぽうで気に入ったことになると、とことんのめり込む性質もある。要は「気が多い」人たちで、芸能人にも多い。(徹子の部屋を続けている玉ネギおばさんなど)。
このADHDの援助を目的としたNPO法人の名称が「えじそんくらぶ」。かのトーマス・エジソンにちなんだものだ。理由は彼がADHDだったから。
そう、偉大なる発明王は障害者でもあった。小学校のとき「1+1=2」の意味がわからず、なぜ物が燃えるのかを確認するために、藁を燃やして自宅納屋を全焼させた事件など普通に考えたら「なに?この子!」というエピソードに満ちている。教師から「君の頭は腐っている」と匙を投げられ、3か月で退学。その後独学で発明の道に入る。他人との交流では過干渉になりがちで、上記の送電トラブルや会社除名事件などはADHDの症状ともいえる。

一宮むすび心療内科にも「私はADHDではないか?」と来院する患者さんが後を絶たない。
粗井注意君(33歳)もそのひとり。高校を中退後アルバイトを転々。結婚したが、相手もADHD(おそらく)で衝突し離婚。いまは宅配便の社員として忙しく働く。じっとしていられないので、運送関係が合っているのだ。
最大の悩みは朝、起きられないこと。怠けとは関係ないレベル(=脳の機能の問題)なのだが、普通の人にはわからないのが難点だ。それを補うのが飛びぬけた空間把握能力。初めての仕事でも先輩の身振りを観察するだけでこなし、ナビなしで目的地に到着してしまう。なので、新入2年目で係長に抜擢された。
それを支えるのがメチルフェニデートという薬物。ただし、これは依存作用があり、医師の指示をきちんと守る必要がある。さいわい、粗井君とむすび院長の相性は悪くないようで、今のところ”2人3脚”でやれている。(予約時間に来られないのは目をつぶっている)。

進化論的にいえば、ヒトが進化してきた原動力がこの新奇追求性だろう。アフリカ大地溝で生まれた人類は、ほかの 哺乳類にはない好奇心の塊の詰まった脳を携えて、五大陸に拡散していった――
エジソンの”遺伝子”を多くの現代人が持っていることに気づけば、ADHDの人たちへのまなざしも変わることだろう。