日本列島は2週連続の台風縦断となりそうだ。大型で強い規模の19号がゆっくり北上するなか、なんとか東海地方の空模様は持ちこたえ、18号で一週間延期された小学校学区運動会が行われた。今日のコラムは「スポーツの秋」にちなんだお題。

町内役員という立場もあり、何年かぶりに「大運動会」に参加した。以前は各町内ごとに得点順位を競ったが、少子化の波は地元にも押し寄せ、最近はいくつかの町内会をまとめたブロック対抗に変わってきている。
定番の綱引き、玉入れ、リレーなどに交じり、参加者に歓声が上がったのが借り物競争。メガネなどありきたりの物だけでなく、「ひげを生やしたおじさん」や「美人の人妻2人」といった指示が出て、応援席のフツーのママさんらが駆り出されていた。やれやれ、けさ髭を剃っておいてよかった。
いつも診察室で日がな一日座りっぱなしなのと比べ、太陽の下で丸一日過ごすと心地よい疲れに包まれる。うとうとして想ったのが「うつ病の運動療法」だ。

厚労省は3年前、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病と並んで、精神疾患を「5大疾病」と位置付けた。背景には年間自殺者が3万人規模で推移した中、その大半を精神疾患、とりわけうつ病が占める現実がある。大規模な疫学調査では日本人のうつ病の生涯有病率は6.7%。15人にひとりが一度は罹るありふれた病気なのだ。他人事ではいられない時代。
その意味でうつ病治療は焦眉の急といえるし、そのなかで抗うつ薬使用量が増加しているのは事態を象徴している。一部では、製薬会社の戦略に乗せられた精神科医が抗うつ薬を過剰使用し、逆に患者を作っているとの批判もある。一聴に値するが、それがメインではないと考える。電信柱の数と経済成長が相関しているからといって、柱が増えたのが成長の原因とは言えないのと同じ理屈だ。
教科書的にいえば、典型的なうつ病治療の基本はやはり「薬と休養」。しかし、万人に有効な魔法の杖があるわけではない。ケース・バイ・ケースとはいえ、急性期を過ぎたうつ病患者さんに「良い」といえる治療のひとつが「運動」だろう。
いくつかの研究によると、BDNF(脳由来神経栄養因子)という記憶や学習機能などに深くかかわる神経伝達物質がうつ病患者では低下しており、その因子が運動によって上昇することがわかっている。米国の疫学研究では、スポーツや余暇活動の時間が長いほどうつ病の発症者が少ないという。また、やはり米国人女性約5万人を10年間追跡調査したところ、テレビを観る時間が長いと、運動とは独立して(=無関係にという意味)うつ病のリスクが高まることが判明した。
日本うつ病学会は2年前に治療ガイドラインで、軽症うつ病に対する薬物・精神療法の「併用療法」として運動療法を挙げている。「週3回以上、中程度以上の運動を一定時間継続」と示した。本格的な基礎・臨床研究が今後展開していくだろう。

僕の本棚に1冊の本がある。「脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(ジョンJ.レイティ、エリック・ヘイガ―マン著)。まだ、積ん読(つんどく)状態で埃をかぶっている。まず、一歩踏み出して読み始めよう。