先達(せんだっ)て、一宮保健所開催のうつ病家族教室でお話をしたので、院長コラムでも報告をしておく。2時間の内容で少々長くなるが、お付き合いのほどを。

テーマは「うつ病の正しい知識・対応の仕方~ご存知ですか?いろいろなうつ病~」。前半は講義と称してうつ病について説明。後半は16人の参加者を二つの班に分け、モデルケースをもとにグループ・ディスカッション。最後はかなり盛り上がる議論になった。

冒頭、僕なりにうつ病の”定義”をした。
「強いストレスが続いて、脳の働きが低下し、心と体に不都合な症状が続く精神疾患。体の不具合だけが目立つこともある。なりやすい体質(性格)はあるとされているが、それよりも環境要因が強く、誰でも状況次第でなりうることがポイント」。
まずは、ストレスの解説。元々は物理学用語で、強い力が物体に加わり変形した状態。ストレスの生じる素は正確には「ストレッサ―」という。例として「あの人は私には大変なストレッサ―だ」と説明。これを方言の尾張弁に置き換えると「うちの(夫または妻)は、どえりゃあストレスだがね」と言い換えできる。
「ここで笑わないと、あと笑うところがありません」と振ると、やさしい方たちだ、付き合い笑いをしてくれた(苦笑)。
続いて、自然治癒力の話。うつ病を”こころの風邪”ということがあるが、表現としては”こころの肺炎”としたほうがふさわしい。風邪は放っておいてもよいが、肺炎は治療しないと命に関わることがあるからだ。
人間には自然治癒力でなおろうとする力がある。これをホメオスタシス(恒常性の維持)といい、”適度”のストレスはこれを助ける。ただし度を超すと心身のバランスが崩れ、うつ病への道をひらくことになる。

自然には固有のリズムがある。地球の自転は1日24時間だが、これは年々遅くなっている。(誕生当時の数十億年前は1日数時間だった)。地上の生き物もこれに適応するため、バイオリズムを調節。ヒトは1日約25時間としたのだ。なので、おカアサンたちに助言。朝、ちっとも起きないコドモは自然の摂理で寝坊すけになっているんです。社会に適応するためには、朝日を浴びて同じ時間に食事を摂ることで、リズムを作りましょう。
これを踏まえれば、結婚や新築、昇進でうつ病になることが納得できる。うつ病に限らず、病気の本質はリズム障害なのだ(これは僕の勝手な自説ではなく、最近の研究の成果)。

うつ病にもいろいろあって、気分の波が落ち込みのみ(単極)か、ハイな時期もある(双極)かで分ける。後者が躁うつ病で、さらにどちらでもない”だらだら坂”の非定型パタンもある。
昨今、入社まもなく「うつになりました。診断書ください。仕事が合わないんです」というタイプの”新型うつ”の若者が目立つが、これを従来のうつ病と同じ括りで考えるかどうか、医者の間でも議論がある。少なくとも、こういう人たちに「薬を飲んで、休めば(従来型のうつ病のように)なおります」とは言えない。
また、うつ病は女性に多いのが特徴(男性の2倍。ただし、自殺にまで至るのは男が多い)。月経前、出産後、更年期と、ホルモンがらみでリズムの乱れることが多い。補足すると、だから女性が”弱い”わけではない。むしろ女性ホルモンはある部分、病気から我々を守ってくれている。男女の寿命差を考えれば、明白だ。

いずれにせよ、うつ病になる前のチェック法としては、次の2点に尽きる。
① 憂うつで、何もする意欲がわかない。
② 以前できていたことが楽しめない。
――両方あてはまり、かつ2週間続くときは、うつ病の可能性がある。
また、うつ病の症状は身体に表れる。不眠(または過眠)の患者さんは9割にのぼる。頭痛も過半数に伴い、めまいやしびれ、腰痛もうつの症状となりうる。
うつの人への接し方は、誰でもなりうる病気という自覚を周囲が持ち、ひたすら話を聴くことだ。「傾聴」という。これが難しい。そして、自殺の危険が少しでもあるときは、必ず治療につなげること。いつもと違う言動に家族なら気づくはずだ。

ここまでが第一部の講義。第二部のロール・プレイはまた別の機会に報告します。ここまで読んでいただいた皆さま、ありがとうございます。兼好法師のいうように「先達(せんだつ)はあらまほしき」内容になっていれば、さいわいなのだが。