光学機器会社リコーが、希望退職に応じなかった社員約100人に命じた出向・配置転換を取り消すことになったと、新聞記事に出ていた。このうち2人との間で裁判となり、「人事権の乱用」と和解判決(東京地裁)が出たのがきっかけという。
僕は以前から産業医をしている。多くの人は医師というと、臨床現場で働く”お医者さん”のイメージしかないと思われるので、この機会に少し書いておきたい。

産業医とは、会社で働く医者のことである。仕事内容は、ひとことで言うと、職場の安全・衛生管理、従業員の健康管理。たとえば、工場内の気温が30℃を超えるような環境なら、エアコンを入れるよう経営側に促すといった具合だ。最近はメンタルヘルスに関する需要が高まっており、人間関係の調整が産業医業務となることもある。昨今の2大長期休職者は、慢性整形疾患とメンタル不調者が占めている。
労働法に基づいて所定の資格を持つ医師が選ばれるが、現実には産業医を選定していない小規模事業所もある。ひとつは、産業医の必要性が労働現場でしっかり認識されない実態があったと推測される。コスト・パフォーマンスの問題は無視できないが、法律では50人以上の従業員を雇う事業所ごとに産業医の選任が義務付けられている。
医師の側にも、医学の王道は臨床医もしくは基礎研究医という風潮がないかというと、否定はできないだろう。(産業医科大学という産業医育成機関があることを記しておく)。

産業医の一番の特徴としては、会社の立場と従業員の立場の調整役が挙げられる。ことをメンタルに限定していうと、臨床の精神科医は患者さんの治療の際、会社の都合は基本的に考えない。彼 / 彼女が休職することで会社にどれだけ影響が出るか、などと考える必要はないからだ。
いっぽう、メンタル担当産業医はそういうわけにはいかない。社員のメンタル休職で業務に支障が出て、めぐり巡ってその社員の立場が難しくなり、結果的に本人に不利益になる、ということはよくあることだからだ。裁判になぞらえてみれば、被告人(=患者)を挟んで、弁護人(=精神科医)と検察官(=産業医)が対立する図式といえる。

メンタル担当産業医としては、上に書いたように、長期休職者の対応には頭を悩ます。「うつ」によるものが最多だが、うつにもいろいろある。これは後日、別稿でお伝えしたい。
リコーの件は記事を読んだだけだが、なんだか堺雅人の”倍返し”を思い出していた。いやな言葉だ。お利口(りこう)さんだけが得をする世の中であってほしくないと感じるこのごろ。