むすび、むすばれ、ひとまわり

本日一宮むすび心療内科は開業一周年を迎えました。これもひとえに通ってくださった患者さん、それを支えた家族や周囲の人たち、そしてわがむすびスタッフのおかげと感謝。院長ブログ紙面を借りて御礼申し上げます。なお、本日外来は休診し、スタッフ研修で明日からの診療に備える日に充てたいと思います。よろしくお願いいたします。
4月8日は語呂合わせで「出発の日」。新たな1年に向けて、いつも朝礼で唱えているモットーをブログ読者の皆さんにもご唱和いただきたいと思います。

「心と体をむすび、人と人をむすび、まちとひとをむすぶ」。

院長ブログ1年回顧録

講演準備などでバタバタと過ごすうちに年度が替わった。満開の桜が春雨に散る日曜、これまでの院長ブログを数えると75本あった。2週間で3本のペースだ。外来診療の合い間にしたためた割りには、書けたほうと思う。開業一周年を前に振り返る。

ブログを始めた時、崇高な目的があったわけではない。ホームページ(HP)ご覧の方々に役立つ情報をと考えたのと、自分の”書きたい欲”を満たしたかったのが正直なところだ。新聞記者時代のコラム執筆要領を思い出しながらまとめたが、心療内科医らしくなるよう苦心した。内容を大別すると三つに分けられる。

①心と体の病気を説明したもの②記念日などの時事ネタもの③院長私事周辺の披露もの――
それらを各時季のニュースや話題に絡めてコラムに仕立てた。その中から僕自身にとって印象深い回を再度紹介したい。[以下アーカイブで日付をクリックすると読めます]

当院受診理由の圧倒的多数を占めるのがHP。患者さんに病気のことを知ってもらうきっかけにと、①ではさまざまな病気を取り上げてきた。うつ病には産後うつもあれば、”新型うつ”もあることを講演のダイジェストを載せて伝えた(8・23『うつ病教室』、10・5『縁結びの神様に誓う』、11・20『「こどもの日」に産後うつを語った。』)。
病気からの快復には「寝て食べる」のが基本だが、心療内科ではそこをやられる患者さんが多い。不眠症について語った3・18『良き眠りのために』はよく読まれたし、5・18『10年河清を待つ』では文字通り治癒まで10年かかった摂食障害の患者さんを取り上げた。

心療内科治療の柱のひとつが薬物療法。特に僕は漢方を重用するが、更年期障害や月経前症候群などに有効なことが多い。6・22『こころを温め、清くする飲み物』では基本の考え方を披露し、8・10『風雲灸を据える』では鍼(はり)について解説をした。心身医療の治療法として有力な技法だ。
外来休診日(木曜)に産業医活動をしており、馴染みの少ない産業医について7・20『会社のお医者さん』で取り上げた。

②の記念日物はiPadを活用した。「今日は何の日?」で検索すると出てくる項目を参照。7・28『Re:Bornのために』はそれで知った親子の日(7月第4日曜)がテーマ。
敬愛する文士の命日も取り上げた。6・19『杏と桜桃』は太宰治、7・24『河童の不安を流すには』は芥川龍之介にちなんだ話。特に前者は森鴎外の次女小堀杏奴さんとの交流を回顧した愛着の深いコラム。

③の私事物では野球と音楽をよく扱った。7・3『3時のおやつ』では梶原一騎原作「巨人の星」を紹介し、8・31『雨の8月・甲子園の詩』では両方にかかわる作詞家阿久悠の作品を題材とした。お気に入りの作家向田邦子もネタにした。8・22『昭和の人・向田邦子』を読んでいただけると嬉しい。院名の由来がわかる仕掛けだ。
一連のコラムで特に力を入れたのが8・12『御巣鷹のPTSD』と10・10『10月10日は体育の日』。前者は記者時代に関わった日航ジャンボ機墜落事故とトラウマの関連を書いたもので、後者は中学時代の恩師のエピソードを綴った回想文。つボイノリオさんも登場する。ぜひ読んでほしい。

3月28日には「成人ADHDの臨床」について、専門家講演の前座で医師向けに話をしたが、そこでもブログを引き合いに出した。10・23『エジソンの末裔』。ご存知発明家トーマス・エジソンはADHD(注意欠如症)でもあった。当院でも多くの患者さんが来院される。治療の参考になると信じている。

以上、つらつら書き並べて改めて想うのは、心身医療の道はまだまだ遠いということ。コラムを読んでいただき、忌憚なきご意見をコメント頂けると励みになります。次の1年を目指し続ける覚悟なので応援よろしくお願いいたします。                                           
                                                   院長敬白

月経関連医学研究会~虐待の対応~

春のお彼岸連休、東京・西新宿で月経関連医学研究会があり、新幹線で出かけた。きょうはその報告。
東京慈恵会医大精神科中山和彦教授が世話人代表で、今年で11回目。精神科なのにどうして月経?と思われる方もいるだろう。 
非定型精神病という心の病気がある。統合失調症と躁うつ病の両方の症状が出て、通常の分類に当てはまりにくい 疾患概念なのだが、圧倒的に女性に多く、生理周期に合わせて病状の悪化することがある。
中山先生若かりし頃、この病気の女性と出会い、ライフワークとされたそうだ。同医大産婦人科の落合和徳教授と共に研究臨床に没頭した。僕自身、小児科と心療内科の揃ったマタニティ病院で働いていた時期に研究会の存在を知り、参加し続けてきた。
毎年、月経の仕組みと心の在りようにつながる講演や症例発表がある。今年は国際ウィメンズメンタルヘルス学会日本開催と重なり、「虐待」がテーマとなった。月経と虐待がどう関係するのかも興味深いところだが、幼少時に虐待歴があると月経不順に陥りやすいという研究がある。
冒頭、心的外傷後トラウマ障害(PTSD)を専門とする医師による解説があった。
怪我をすれば自然にかさぶたができて傷が修復されるように、人の心にも自然回復力がある。ある調査によると、3次救急患者の3割がうつ病や不安障害、PTSDになる。これら精神疾患の有病率と比べて高い数字だが、見方を変えれば、7割は放っておいても良くなる、ともいえる。
しかし、いったんPTSDになると事件の記憶が歪んでしまい、自分自身を冷静に保つことが出来なくなる。淡々と過去を振り返る様子から周囲には普通と思える時期があるが、それは茫然自失状態で心に鍵がかかった結果に過ぎない。なので、何らかのきっかけでつらい記憶がフラッシュバックすると、感情が暴発してコントロールできなくなる。破壊された記憶の断片を丁寧につなぎ合わせる治療が求められるゆえんだ。
PTSDになる率は男女ともに同じだが、その理由が異なる。国際比較では男性は戦争、女性はレイプ被害者が際立つ。わが国でも家庭内暴力(DV)や性的暴力で苦しむ女性がいる。問題の性質上報告されない例も多いはずとシンポジウムで発表した産婦人科医は強調した。10歳以下や60歳以上の例もある。
こうしたケースをどう救ったらよいのか?続いて登壇した精神科医2人は、DV被害母子の治療として、親子相互の交流を図る治療法(PCIT)を推奨した。
日本でもまだ専門組織が立ち上がって4年目の新しい療法。基本は2段階の交流技法で、最初は子ども主体のやり取りを続ける。子どもをほめ、繰り返す。質問や指示は禁物。この段階を経てから親主導の躾(しつけ)に入っていく。その際必ずアセスメントで評価し、現状把握を忘れないことという。PCITで劇的によくなった5歳の男の子の例が報告された。2歳のときはDVシェルターも出所せざるを得なかった症状が改善し、今はにこにこと母との遊びを楽しむという。
最後に、オランダから来日した国際ストレストラウマ学会会長のミランダ・オルフ女史が妊娠とトラウマについて講演されたが、これは別途報告をしたい。

今年は思いのほか重いテーマの月経関連医学研究会となった。新宿での開催は多分最初で最後だろうが、旧世代のむすび院長は藤圭子のデビュー曲『新宿の女』(石坂まさを・みずの稔作詞、石坂まさを作曲)を思い出していた。
♪私が男に なれたなら 私は女を捨てないわ、、、私を見捨てた 人なのに バカだな バカだな だまされちゃって♪
待ち時間に会場ホテル隣の東京都庁に出向いた。45階の無料展望室に上った。春霞に隠れて、富士山は望めなかった。


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