ウツるんです♯36 ラブリー「利他」の道を 予告編

 院長コラムの更新が2か月ぶりになった理由から。
  
 一昨年4月から中日・東京新聞で「元記者の心身カルテ」を1年間連載しました。その同じ欄で、この4月から「Dr.‘sサロン」と題し、6人の医師がリレー式に執筆することになり、私も一員となったため、その準備がありました。
 先日の火曜に書いた1回目の見出しは「いらいら防ぐいい加減」。コロナ禍で在宅が増え、顔を突き合わせる機会が増えたせいで、家族の絆がむしろ壊れかけている面を指摘。ひとりひとりがまず無理し過ぎないことが大事と伝えました。

 それと、昨日配信開始になったのが経済紙Forbes JAPANのオンライン版。「元記者―」を読んだスタッフが、同紙のオフィシャルコラムニストとして紙面(電子面?)を提供してくれ、「記者のち精神科医が照らす「心/身」の境界」のタイトルで、月いちペースで書いていく予定です。
 こちらは3000字以上あるボリューム。手前みそで恐縮ですが、面白いので読んでみて下さい。初回は「高体温で差別された青年 精神科医の私が『分断ウイルス』と呼ぶ理由」〔無料アクセスできます〕

 加えて、先日木曜夜、中日新聞WEBセミナー第1回の講師に指名されました。テーマは「分断ウイルスコロナ~孤独とどう向き合うか」。典型的昭和アナログ人間なので、スライド作成や進行は記者さんに任せっぱなし。その分、自分なりに考えるコロナ禍の心構えを、歌(井上陽水の「桜 三月 散歩道」)も混じえながら、視聴者の皆さんに伝えました。
 
 というわけで、クリニック開業以来7年続けてきた当欄の更新ペースは亀の歩みになっていますが、上述のコラム同様、よろしくお付き合いください。
 残念ながら、本日のタイトル「ラブリー『利他』の道を」の本編は、次回ということで    
                            To be continued



ウツるんです#35 冬の「桜桃」~涙が教える乳/父の病2021年2月14日

 土曜は午前診療と午後のあいだが短く、いきおい昼は院内ですます習慣。コロナ禍の緊急事態宣言とくればなおさらだ。以前は自分で野菜炒めを弁当に詰めていたが、最近は妻が作ってくれるようになり、卵焼きにウインナが定番になった。
 妻の機嫌がよいとデザートにフルーツ缶詰がつく。先週はサクランボのシロップ漬けがうまかった。サクランボは本来、初夏の食べ物だが、冬の桜桃もよいなと思いつつ、太宰治の小説「桜桃」を思い出していた。

 実質上の絶筆になったこの小品は「子供より親が大事、と思いたい」のフレーズが有名だ。自らをモチーフにして、子ども3人を抱えた小説家の苦悩を、妻と交えた会話で表現する。
 夏の夕食のひとコマ。母は1歳の次女におっぱいを含ませるかたわら、父と長男長女の給仕に忙しく、「お父さんは、お鼻に一ばん汗をおかきになるようね。いつも、せわしくお鼻を拭いていらっしゃる」と言葉を投げる。「それじゃ、お前はどこだ。内股かね?」と苦笑して返す父に、「私はね」と母は少しまじめな顔になり、「この、お乳とお乳のあいだに、……涙の谷、……」。ぐうの音も出なくなった父は原稿料をつかむと酒を飲みに行ってしまう。そこで出された桜桃を食べては、種を吐きを繰り返すシーンで終わる。

 シロップ漬け桜桃の種を吐きつつ、ネットサーフィンをしていたら、「涙」で乳がんがわかる、との記事が目に留まった。
 エクソソームという体の様々な細胞から出る物質がある。大きさわずか100ナノメートル(0.0001ミリ)。がん細胞からも放出されるため、涙液中のエクソソームを測ると、乳がんかどうかわかるという仕組みを利用して、神戸大学の竹内俊文教授らが超高感度の測定法を開発したというニュースだ。
 実用化されれば、マンモグラフィのように乳房を押しつぶして痛い思いをすることもなく、乳がん検査を受けられる朗報だ。
 
 日本人女性の最も多いがんが乳がん。私の知人でも多くの女性がなっている。治療後にうつになって受診する患者さんもいる。
 乳がん増加の原因として、食生活の欧米化や女性の社会進出が挙げられている。高脂肪食によるエストロゲンの変化や出産の減少と閉経の遅れによる月経回数の増加が影響しているという仮説だ。

 東京五輪組織委のトップが「女性蔑視発言」ですったもんだしているコロナ禍の令和3年。世の男性陣は、改めて、冬の桜桃を食べながら、太宰の小説を読んでみる必要がありそうだ。
 
 

ウツるんです#34コロナ禍の「セイホ」2021年2月7日

 二度目の緊急事態宣言の効果だろう、2月に入って新型コロナウイルス感染者数が減少中だ。その一方で、重症者はそれほど減らず、死者数は着実に増えている。
 理由は、感染者に占める高齢者の割合が増加しているためだ。免疫弱者を狙う「分断ウイルス」ゆえだが、コロナは同時に、社会的弱者もターゲットにしているように思える。
 
 国会でコロナ対策の特別給付金を求める質問に、菅首相はこれを否定し、「最終的には生活保護という、そうした仕組み」があると答弁し、物議をかもしている。
 その背景には、近年一貫して増え続けている生活保護受給(約165万世帯)の問題が横たわっていると思われる。いまは親族に対する扶養照会の取り扱いが話題にのぼるが、より本質的な、保護費支給の物価算定基準が国の恣意で変更されたことは、各地で裁判になっているのに、メディア報道は不十分に見える(この件は、私の元勤務先の同僚記者だった白井康彦氏が精緻な論考をしている)。
 
 当院にも生活保護の患者さんたちが通院する。もともと精神的な問題を抱え、仕事のできなくなった人もいるが、やむを得ない事情で経済的困窮に陥り、うつ状態になる人もいる。
 そういう人のため、まさに生活保護がある。法学部卒として、憲法25条の社会的生存権が根拠であることを強調したい。まさしく首相の言う「セーフティーネット」なのだが、現実は厳しい。
 最近、保護受給中の女性患者が市役所からこんな通知を受けた。「セイホ(生活保護の略)のメンタルの人は自立支援を受けないといけない」。自立支援とは、「心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度」(厚労省HP)のこと。
 それぞれ別個の目的を持った制度だが、「公助」という点では同じだ。ここから先は推測だが、生活保護予算がひっ迫しているので、「お上」からの圧力あるいは現場の忖度があるのではないか。その証拠に、ほかの患者でも、同様の“指示”を受けたため、当院から説明を求めると、法的根拠はないと撤回された。
 分断ウイルスでギスギスした世相であるからこそ、こう問いたい。
 菅さん、国民の実情をもっと見つめてください。“ガースー”じゃなくって、「さーすがー」といわれるトップになってくれないと、次は、無いよ。
 

 
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