ウツるんです#13白球を追いかけろ(2020年6月14日)

 第一波が治まった国内のコロナ禍だが、制限解除が進む東京では、また感染確認者数が増加してきた。そんななか、この春中止になった第92回選抜高校野球大会出場予定32校の交流試合開催が決まった。今週末からは延期されていたプロ野球も始まる。“遅れた球春”の到来だ。
 
 1年半前、パニック障害の40代主婦が当院を訪れた。薬を極力使わず、ゆっくり話を聴き、漢方と頓服で切り抜けて最近は発作も出ない。
 彼女には高校2年になる二卵性双生児の息子がいる。病状安定で2ヶ月に一度の受診の際、コロナ禍で気になることを尋ねた。
「子どもたちも自宅待機が長くて、いらいら気味だったんです。二人は別々の高校で、ともに野球部なんですけど、やっと部活できるとホッとしたみたい。以前とは練習の仕方も変わりましたね。熱中症も心配なので、グラウンドで練習中はマスクを外すけど、それ以外のミーティングなどはマスク着用。着替えも感染リスクなようで、泥だらけのユニフォームのまま家に帰ってきます。本来は制服に着替える規則みたいなんですけど、こういう時期ですから。試合のある日の移動も、以前ならバスだったのが、今はそれぞれ自家用車で家族が送迎しています。でも県大会ができるようになって喜んでました。なので巨人の選手が(PCR検査で)陽性とニュース聴いて、ビビってましたね。甲子園は、今2年生なので、自分たちのことよりも、先輩のことを心配してました。ぼくたちには来年があるけど、って」
 
 戦争や戦前の米騒動を除き、甲子園野球が中止になったことはない。球児だけでなく、野球を人生の楽しみにしている人たちにとっては、途轍もないことなのだ。
 パチンコや麻雀、ナイトクラブなど、「不要不急」のことどもは控えるべきだというような同調圧力がこの国を覆ってはいまいか。なにが必要火急なのか、ギャンブルが当てはまるならスポーツはどうなのか。芸能は、文化は、、それは他者の介入する筋合いではない気がする。
 江川卓さんもたしか、こう言っていた。「たかが野球、されど野球」

ウツるんです#12 コロナ禍で懸命に働く(2020年6月7日) 

 新型コロナウイルス対策のなか、中小企業の持続化給付金委託先“中抜き”が問題になっている。電通に再委託する間に20億円が“消えて”しまった。
 わが国の企業421万社のうち、99.7%が中小企業で従業員数は7割(約2784万人)を占める。コロナ禍で200 社以上が倒産し、2万人が解雇された。雇用に悩む人たちの怒りが中抜き問題にどう向かうのか。黒人暴行死問題で騒然とする米国と、暴動の起きない日本の差を思う。
 
 私が産業医を務める政府系金融機関でも、困窮を訴える来店者への対応で、スタッフの残業は軒並み過労死ラインの80時間を超えている。
 定年後再雇用で勤務する60代男性。融資担当だが、コロナ対応で資金繰り相談は通常の6倍。4月上旬、仕事中に頭が真っ白になった。住まいの名古屋にあるメンタルクリニックを受診すると、まず検査しましょうと採血された。
 多忙で足が運べず後日、結果を電話で聴こうとすると、対面でないと答えられないとの返事。それからじっと我慢の子で1ヶ月半。精神的には元に戻り、振り返る余裕もやっとでた。
「40年近く働いて、いちばんの忙しさ。リーマンショックの時は地方にいたけど、融資のハードルはそんなに下げなかった。今回は下げざるを得なくて住宅ローンも延長。自己判断のプレッシャーで、ふだん110~120の血圧が180まで上がりました」
 もうひとりは50代男性行員。痛風のため、飲みたいビールを我慢しながら平成の時代をバンカーとして切り抜けてきた。趣味のランニングで鍛えた肉体も疲れ切っていると自覚する。
 「3月の残業が106時間。あのころは短期で終われるかなと思って頑張り過ぎました。4月が99時間、5月にようやく80時間を切れました。土日は走らずに休養に宛ててます」

 以前の当欄で記したように、人類はかつて何回も大きな疫病(エピデミック)に順応してきた。今回もそうなるだろう。渦中の庶民の苦悩は過去なかなか記録には残りにくかったが、デジタル化社会となった今回のコロナ禍は、こんなちっぽけなSNSにもその足跡の一端を残しておきたい。
 
 

ウツるんです#11テレワークという「枠」(2020年5月31日)

 わが国のコロナパンデミックはひとまず第一波を越えた。とはいえ北九州市のようにいつ再燃するかも知れぬ中、テレワークが広がっている。ちょうど、本日の中日新聞サンデー版が特集を組んでいて、当欄でも取り上げる次第。
 テレワーク(telework)のテレはギリシャ語の「遠く離れて」の意味。テレビジョン(vision=見る)や電話(テレホン、phone=音)でおなじみだ。サンデー版によると「情報通信技術を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」が定義だが、要は在宅勤務。東日本大震災後に12.5%まで増えた後下降し、今回再び“新記録”を更新した。
 
 当院にも、テレワークにいそしむ会社員たちが患者として通うが、恩恵よりは被害をこうむるケースが目立つ。
 50代の男性。理系大学院を出て大手メーカーに就職。20年以上研究職として働き、5年前初めて畑違いの部署に異動。上司の当たりが厳しく、眠れなくなって1年半前に来院した。穏やかだが苦笑交じりの口調はsmiling depression(=ほほえみうつ病)と呼ばれる状態だった。
 治療で睡眠を確保、悩みを聴くことで安定し、1年が過ぎた。そこへコロナ禍。組織変更があり、テレワークが始まった。激減した4月の業務量を5月に挽回しろと上から指示されるが、「電車通勤は不可。自家用車は許可するが、高速代は自腹」といわれ、再度うつ状態に陥った。
 これも50代の男性。6年前、東日本大震災の復興関連の仕事で過労が続くなか、発作的に首を吊ろうとした。実家の愛知県に戻り、当院初診。元々建築関連の仕事で阪神大震災の時、現場に駆け付けられなかったことを悔やみ、東北入りしたのだった。
 休職を助言し、うつ病の治療開始。回復し、東北での仕事に戻って5年。昨年再度愛知県に戻り、フォロー中に、コロナ対策で上司と食い違い、テレワークを指示された。「大声でわめきたくなった。テレワークの設備もない中で自宅に缶詰め。家でできる仕事ないのに」。ほとんど飲まなくなった睡眠薬にまた頼らざるを得なくなった。

 サンデー版にはジョン・メッセンジャーILO労働条件上級専門官のコメントが載っていた。
「管理職、テレワーカー、同僚は相互信頼が必要。テレワーカーには事務所で働く同僚と同じ権利、同等の労働条件の確保が重要だ」
 嘆くだけでは、解決しないのだろう。ピンチはチャンス。コロナ版テレワークは、労働者の団結を高める“離れた枠”を組み立てるための格好の場だと思う。
 

 
 
 
 
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