ウソから出たマコト

 うそ替え神事 という伝統行事がある。元は菅原道真が蜂に襲われた時、鷽(うそ)という鳥の大群が助けたという由来で、木彫りの鷽を交換して嘘(うそ)を本当にすべく願う神事だ。
 パンデミックとなった新型コロナウイルスで志村けんさんが亡くなったのも嘘であってほしいが、現実だ。そのニュースも冷めやらない31日、滋賀県大津地裁で非常に重要な判決が出た。 
 当欄でも何度も紹介している冤罪(えんざい)事件。元看護助手西山美香さん(40歳)が17年前、末期患者の人工呼吸器を外して殺したとして逮捕され、懲役12年の刑が確定したが、獄中から無実の手紙を両親に約350通も出し続けた。それを読んだ中日新聞の記者たちが動いて「ニュースを問う」に連載し続け、井戸謙一弁護士ら弁護団と恩師、国民救援会、日弁連が支援し、本日の第二次再審無罪判決となった。
 元記者の私も精神鑑定の形で関わることとなり、西山さんの雪冤に貢献できて、感慨深い。軽度知的・発達障害からコミュニケーションに悩み、人に愛情を求め続けた美香さんは、人との関係を保つために「嘘」を重ねて生きてきた。それが事件に遭遇して供述弱者の立場に立たされ、苦難の道を歩むことになった。
 医者の世界には「ホワイトライ(白い嘘=患者を守る嘘)」という言葉がある。今の社会では反対の”ブラックライ”も横行しているが、同僚の看護師を助け、愛着障害に悩む自分自身を助けるためについた美香さんの嘘はもちろん前者だ。
  本日の判決文は90分の長きにわたり、大西直樹裁判長が今の日本の刑事司法の問題点をきちんと示した点で高く評価できる。最後、「もう嘘をつかなくてもよいです」などと涙ながらに西山さんをねぎらったことは判決史に刻まれるべきだろう。
 判決後の記者会見に臨み、満開の桜に合わせて身に付けた桜模様のネイルとイヤリング、そして白の装いが、彼女の潔白を完全に示していた。ご両親、美香さん、おめでとう。
 
 

ウツるんデス

 新型コロナウイルス(正式にはSARS-CoV-2、以降新コロナ)が猛威を振るっている。中国・武漢で2019年末に始まった感染は3月15日までに世界125か国に広がり、WHO(世界保健機関)はパンデミックを宣言。現在はヨーロッパを中心にアフリカにまで拡大中だ。
 すでに知られる通り、新コロナの特徴は潜伏期が長く、初期症状が通常の風邪と変わりない点だ。そこがインフルエンザウイルスとの違いで、ゆっくり、着実に広がるような戦略を新コロナは取っている。おそらくピークは少し先になるだろう。これはPCR検査の実施に関係なく、何峰も来る可能性がある。
 そんな、状況下でどう対応するかの判断は高度に政治的なものだが、そのベースには医学的・疫学的に正確で冷静な情報が元になっていなければならない。目下の情勢では、クラスター(小集団)での伝播が重要であり、感度(感染者が陽性となる確度)がそれほど高くないPCR検査をクラスターの濃厚接触者に集中させて行う必要がある。
 感染拡大阻止のためには、該当者・施設のプライバシー保護との軋轢が生じる。両者は本質的にシーソーの関係にあり、自治体によって後者の情報開示が細かいところと不十分なところとの落差が激しい。その背景にあるのが、感染者への差別と僕は考える。それは、かつて、ハンセン病などで繰り返された歴史を思い起こせばよい。これは日本人に限ったことではないが、同調圧力の強いわが国により顕著だと感じる。
 かつて、「風邪は社会の迷惑です」というTVコマーシャルがあった。アレを観た時のいやな感じは今も忘れない。どうせなら、樹木希林と岸本加世子の写真フイルムCM「美しい人は美しく、そうでない人はそれなりに」の調子でいきたいものだ。インスタントカメラもパンデミックを起こすウイルスも結局はそれなりに「ウツるんデス」。非科学的に自粛して、みんな「ウツ」にならないように願う。
 

鬼は国家権力~呼吸器事件再審初公判

  令和初の節分という区切りの日、滋賀・大津地裁で呼吸器事件再審の初公判があり、外来を休診にして傍聴に出かけた。
 16年前、湖東記念病院で人工呼吸器を着けた末期の高齢患者が病死した。たまたま発見した看護師が「呼吸器の管が外れていた」とうその報告をしたことから、警察が業務上過失致死事件として捜査開始。ところが、実は管は外れていないのに、外れた時に鳴るアラームを「鳴った」と警察に嘘の証言をさせられた元看護助手の西山美香さん(40)が、警察・検察の捏造ストーリーのまま、患者の管を外して殺したとして逮捕、懲役12年の罪を着せられた。
 西山さんが獄中から両親に宛てた350余通の手紙「私は殺ろしていません」の訴えが中日新聞の記者の目に留まり、冤罪”キャンペーン”の連載が始まった。そのきっかけのひとつが、彼女に軽度知的障害・発達障害(ADHD)などがあったことで、小生が精神科医として、獄中の彼女に精神鑑定した。その縁で3年のつきあいとなり、本日、再審無罪の可能性が大きく高まった。
 これは、西山さんのような「供述弱者」のみの問題ではない。この拙文を読んでいる多くの人が、明日は我が身だという日本の捜査、司法の仕組みがあるということを、改めて認識する必要がある。今日の公判で明らかになった事実として、逮捕、拘留されていた西山さんに、取調べの刑事は彼女の好物のケーキやハンバーガーを渡していた。利益誘導の禁止に違反する違法捜査だ。これが、現実。
 豆まきで駆逐すべきは鬼ではなく、こうした国家権力と、それに同調する国民性だろう。

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